行政手続と行政上の不服申立

スポンサーリンク


行政不服申立制度の概要

行政不服申立制度

行政不服申立制度(行政不服審査制度)の目的は、行政不服審査法(行審法)1条1項に規定されている(1)国民の権利利益の救済、(2)行政の適正な運営の確保の2つである。

この法律は、行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。

行政不服申立制度のメリットは以下の4つである。

  1. 審理手続の簡易迅速性:時間や費用のかかる裁判手続と比較すると、よりインフォーマルな行政上の不服申立は短時間かつ低コストで権利救済を実現できる。
  2. 審理対象の広範性:行政上の不服申立では、行政活動の適法性に加え妥当性の審査を行うことができる。すなわち、裁量の当・不当の審査が可能である。
  3. 不服申立を通じた行政の自己統制の機会:適切な権限行使ができているかを行政自ら確認でき、これを日々の業務に反映させることができる。
  4. 紛争のスクリーニング効果:大量の専門的な内容の紛争が直接裁判所に押し寄せることを回避して、裁判所の負担軽減を図ることができる。

その他、裁判所ではできないインカメラ審理を行うことができる。

他方で、行政不服申立制度のデメリットは以下の2つである。

  1. 裁定者の第三者性の弱さ:不服申立の審査を行うのは、行政なので中立性・公平性を欠く。
  2. 権利救済率の低さ

行政訴訟と比較すると以下のように整理することができる。

裁定機関 対象となる行政活動 期間制限 審理方法の特色 審理範囲の特色
行政不服申立 行政

・審査請求…審査庁(処分庁の最上級行政庁、処分庁、法律で指定された審査庁)

・再調査の請求…処分庁

・再審査請求(再々審査請求)…再審査庁、再々審査庁

行政庁の処分

・行政行為

・公権力の行使にあたる事実行為

3か月 簡易迅速性

・書面審理主義

・職権主義(職権証拠調べ、職権探知)

・違法性

・不当性(裁量の妥当性)

行政訴訟 裁判所

・地裁→高裁→最高裁

・行政行為(処分)
取消訴訟・無効確認訴訟、不作為の違法確認訴訟、義務付け訴訟・差止訴訟

・行政行為以外
当事者訴訟

6か月 ・手続保障

・口頭審理主義
職権証拠調べ、処分権主義、弁論主義

・違法性

・裁量は踰越・濫用の場合のみ審査

行政不服審査法

明治憲法下では、行政不服申立に関する一般法として、旧訴願法(明治23年制定)が制定・施行されていた。しかし、旧訴願法は、行政の自己統制を主目的とするものであり、国民の権利救済を図るという側面は弱かった。また、対象となる事項も法律に定められた事項に限られ、行政救済として不十分なものであった。

昭和37年には、訴願法に代わり、行政不服申立に関する一般法として旧行政不服審査法が制定された。同法は、簡易迅速な手続による国民の権利救済、ならびに、行政の適正な運営の確保を目的とし、原則としてすべての行政処分を不服申立の対象としていた(一般概括主義)。しかし、制度・手続が複雑であり、国民にとって利用しがたい、妥当性審査が十分に機能していないなどの問題点が指摘された。

他方で、処分に係る事前手続を定めた行政手続法の制定(平成5年)、国民の権利利益の実効的救済を趣旨とする行政事件訴訟法の改正(平成16年)等関連する改革が実現したことに伴って、平成26年、行政不服審査法が制定された。同法は、手続の公正性の向上と国民にとっての利便性の向上を趣旨として、旧法の全部改正をする形で制定された。

不服審査の種類

行政不服審査法は、3種類の不服審査を定めている。

  • 審査請求(2条)
  • 再調査の請求(5条)
  • 再審査請求(6条)

審査請求が原則的な不服審査であり、再調査の請求と再審査請求には個別の法律で規定されている場合にのみ利用することができる。その場合においても、再調査の請求・再審査請求も利用するか、審査請求のみを利用するかは自由に選択することができる(自由選択主義)。

審査請求

審査請求の基本構造

行政不服申立制度の核となるのが審査請求である。行政の処分や不作為に対して不服のある者は、審査庁(原則は最上級行政庁)に対して審査請求を提起することができる(2条)。審査請求の対象はすべての行政処分である(一般概括主義)。

審査請求先は審査庁であり、原則として処分庁(処分を行った行政庁)の最上級行政庁である(4条4号)。上級行政庁とは、単に行政組織法・行政手続法上、上位にある行政庁というだけでなく、処分庁に対する指揮監督権を有している行政庁を意味する。例外として、①上級行政庁がない場合または処分庁・不作為庁が主任の大臣、宮内庁長官、庁の長である場合には当該処分庁・不作為庁、②宮内庁長官・庁の長が上級行政庁である場合には宮内庁長官・庁の長、③主任の大臣が上級行政庁である場合(①②を除く)には当該主任の大臣が、審査庁となる(4条1~3号)。

処分についての審査請求は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内に行わなければならない(18条1項)。他方で、不作為についての審査請求には、期間の定めはない。

審査請求の手続

審査請求は以下の手順で進められる。

  1. 審査請求の申立て
  2. 審理員による審理
  3. 審査庁に対する審理員による審理員意見書の提出
  4. 審査庁による行政不服審査会に対する諮問
  5. 行政不服審査会による答申
  6. 裁決

以上の手続の中において、平成26年の改正により、公正手続が重要視されている。具体的には、①審理員には処分関係者以外の者が指名される。そして、②審査庁は原則として、行政不服審査会などの第三者機関に諮問し、その答申を受けて裁決を出すように義務付けられている。

再調査の請求

再調査の請求は、処分庁に処分内容の再考慮を求めるものであり、個別の法律の規定において認められる場合にのみ利用可能である。また、審査請求人は、再調査の請求をするか、審査請求のみをするか自由に選択することができる。

国税通則法75条1項1号イ

第七十五条 国税に関する法律に基づく処分で次の各号に掲げるものに不服がある者は、当該各号に定める不服申立てをすることができる。

一 税務署長、国税局長又は税関長がした処分(次項に規定する処分を除く。) 次に掲げる不服申立てのうちその処分に不服がある者の選択するいずれかの不服申立て

イ その処分をした税務署長、国税局長又は税関長に対する再調査の請求

関税法89条

第八十九条 この法律又は他の関税に関する法律の規定による税関長の処分に不服がある者は、再調査の請求をすることができる。

公害健康被害の補償等に関する法律106条1項

第百六条 認定又は補償給付の支給に関する処分に不服がある者は、その処分をした都道府県知事に対し、再調査の請求をすることができる。

再調査の請求は以下の点で、審査請求に比べ簡易な手続で行われる。

  • 審理員制度や行政不服審査会等への諮問手続が適用されない(61条、9条1項、43条)。
  • 弁明書や反論書の提出、審査請求人等が提出した書類の閲覧、口頭意見陳述時の処分庁への質問、物件の提出要求といった手続規定が準用されていない(61条、29条、30条、31条5項、33条、38条)

再審査請求

再審査請求は、審査請求の後に再度の不服審査を求めるものである。再調査の請求と同様に個別の法律の規定において認められている場合にのみ利用可能であり、再審査請求をするかは審査請求人の自由である。

労働災害補償保険法38条1項

第三十八条 保険給付に関する決定に不服のある者は、労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をし、その決定に不服のある者は、労働保険審査会に対して再審査請求をすることができる。

再審査請求の対象は、原処分に対する不服申立、あるいは、審査請求の裁決に対する不服申立の場合が考えられる(6条2項)。再審査請求では、審理員制度などの審査請求の手続の多くが準用されているが、行政不服審査会に対する諮問手続は準用されていない(66条1項、43条)。審査請求において既に諮問の手続がとられているからである。

行政審判

行政不服審査法は行政不服申立に関する一般法であるが、個別の法律でより手厚い手続である行政審判を定めている場合がある。行政審判は、行政委員会などのような独立性・中立性がある機関が裁判類似の手続で行政上の決定を行うものである。その特色としては、①審判機関が他の行政機関から独立性をもった合議制機関であること、②行政上の決定を行う判断者(審判官)の職権行使の独立性保障や身分保障がされていること、③処分庁と申立人の対審構造において公開の口頭審理手続が採用されていること、④手続に現れた証拠による事実認定がなされることなどである。次のような例が存在する。

  • 鉱業等に係る土地利用の調整手続等に関する法律(土地利用調整法)25条以下
  • 電波法83条以下
  • 特許法121条1項
  • 国家公務員法90条以下、地方公務員法49条の2以下

また、行政審判は裁判類似の手続をとっていることから、行政審判の裁決を裁判で争う場合には、次のような特別な取扱いが認められる例がある。

  • 審級省略して東京高裁の専属管轄とする(土地利用調整法57条、電波法97条、特許法178条1項)。
  • 原処分に対してではなく審決に対する取消訴訟を提起する裁決主義がとられる場合(土地利用調整法50条、電波法96条の2)。
  • 行政審判での認定事実に実質的な証拠があれば、その事実認定は裁判所も拘束する実質的証拠法則が採用される場合(土地利用調整法52条1項、電波法99条1項)。