JASRAC事件最高裁判決-独占禁止法上禁止される排除型私的独占

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事実

JASRACの放送使用料の徴収方法

 一般社団法人日本音楽著作権協会Japanese Society for Rights of Authors, Composers and PublishersJASRAC)は、音楽著作物の著作権を有する者から委託を受けて音楽著作物の利用許諾等の音楽著作権の管理を行う事業者である。JASRACは放送事業者との間で、その管理楽曲の放送への利用許諾につき、管理楽曲の全ての利用を包括的に許諾する「包括許諾」の利用許諾契約を結んでいる。 

 このような包括許諾による利用許諾契約において、放送使用料の徴収方法としては、個別徴収と包括徴収の2つの方法が存在する。

個別徴収

11回ごとの料金として定められる金額(単位使用料)に管理楽曲の利用数を乗じて得られる金額による放送使用料の徴収。

包括徴収の場合に比べて非常に高額。

包括徴収

単位使用料の定めによることなく包括的に定められる金額による放送使用料の徴収。本件の場合は、前年度の放送事業収入に所定の率を乗じて得られる金額を当該年度の放送使用料として徴収する方式が採られた。

比較的低額。

 個別徴収による場合は、11回ごとの単位使用料は64000円であり、放送事業者の年間の利用数を乗ずると、包括徴収による場合と比べて著しく多額となる。そのため、ほとんど全ての放送事業者はJASRACと、包括徴収による許諾契約を結んでいる。

イーライセンスによる参入の失敗

 従来、音楽著作権管理事業は、「著作権ニ関スル仲介業務二関スル法律」の下で、JASRACにのみ許可が与えられてきた。平成1310月の著作物等管理事業法の施行による音楽著作権管理事業が許可制から登録制になり、他の事業者も参入が可能になった。平成18年から、イーライセンス(現在はNexTone)は、音楽著作権を保有しているエイベックス・グループとの間で音楽著作権の管理委託契約を締結し、NHKや民放連との間で、管理楽曲の放送利用についてその許諾方法を包括許諾とし放送使用料の徴収方法を個別徴収とする旨を合意し、放送等利用に係る利用許諾の業務を開始した。しかし、相当数の放送事業者が、イーライセンスの管理楽曲の利用を回避し又は回避しようとするなど、楽曲の放送利用の利用実績が上がらなかったため、エイベックス・グループは、平成1812月、イーライセンスとの管理委託契約を解約した。

 イーライセンスが徴収した放送使用料の額は、平成18年においては66567円、平成19年において75640円にとどまっていた。

平成1310月以前

JASRACのみが音楽著作権管理事業を行うことができた。

平成1310

著作物等管理事業法の施行により、音楽著作権管理事業が自由化され、他の事業者も参入できるようになる。

平成18

イーライセンスが音楽著作権管理事業に参入、エイベックス・グループとの間で音楽著作権の管理委託契約を締結した。

平成1812

エイベックス・グループは管理委託契約を解約した。

平成21227

公正取引委員会による排除措置命令と審決。

公正取引委員会による排除措置命令と審決

 公正取引委員会は、平成21227日、JASRACの包括徴収の方式の採用・実施が、本件市場における他の管理事業者の事業活動を排除するものとして独占禁止法25項が定める排除型私的独占に該当し、3条に違反するとした。そしてJASRACに対し、71項に基づき、放送事業者から徴収する放送使用料の算定において当該放送事業者が放送番組に利用した音楽著作物の総数に占めるJASRACの管理楽曲に占める割合(放送使用料割合)が当該放送使用料に反映されない方法(包括徴収)を採用することにより当該放送事業者が他の管理事業者にも放送使用料の総額がその分だけ増加することとなるようにしている行為を取りやめるべきことなどを命ずる排除措置命令を行った。

 JASRACは、本件排除措置命令を不服として独占禁止法旧496項に基づき審判請求を行った。公正取引委員会は、本件行為は排除型私的独占に該当しないとした、本件排除措置命令を取り消す審決を行った

イーライセンスによる審決取消訴訟

 これに対し、イーライセンスは審決取消訴訟を提起した。東京高裁は、平成25111日、本件行為につき、他の管理事業者の事業活動を排除する効果を有するとして、本件審決を取り消す判決を下した。これに対し、公正取引委員会とJASRACが上告を申し立てた。

判旨

(1)本件行為が独占禁止法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するか否かは,本件行為につき,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり,他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にするなどの効果を有するものといえるか否かによって決すべきものである(最高裁平成21年(行ヒ)第348号同22年12月17日第二小法廷判決・民集64巻8号2067頁参照)。そして,本件行為が上記の効果を有するものといえるか否かについては,本件市場を含む音楽著作権管理事業に係る市場の状況,JASRAC及び他の管理事業者の上記市場における地位及び競争条件の差異,放送利用における音楽著作物の特性,本件行為の態様や継続期間等の諸要素を総合的に考慮して判断されるべきものと解される。

(2)JASRACの本件行為は,本件市場において,音楽著作権管理事業の許可制から登録制への移行後も大部分の音楽著作権につき管理の委託を受けているJASRACとの間で包括許諾による利用許諾契約を締結しないことが放送事業者にとっておよそ想定し難い状況の下で,JASRACの管理楽曲の利用許諾に係る放送使用料についてその金額の算定に放送利用割合が反映されない徴収方法を採ることにより,放送事業者が他の管理事業者に放送使用料を支払うとその負担すべき放送使用料の総額が増加するため,楽曲の放送利用における基本的に代替的な性格もあいまって,放送事業者による他の管理事業者の管理楽曲の利用を抑制するものであり,その抑制の範囲がほとんど全ての放送事業者に及び,その継続期間も相当の長期間にわたるものであることなどに照らせば,他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にする効果を有するものというべきである。

(3)大部分の音楽著作権につき管理の委託を受けているJASRACとの間で包括許諾による利用許諾契約を締結しないことが放送事業者にとっておよそ想定し難い状況の下で,JASRACは,その使用料規程において,放送事業者のJASRACとの利用許諾契約の締結において個別徴収が選択される場合にはその年間の放送使用料の総額が包括徴収による場合に比して著しく多額となるような高額の単位使用料を定め,これによりほとんど全ての放送事業者が包括徴収による利用許諾契約の締結を余儀なくされて徴収方法の選択を事実上制限される状況を生じさせるとともに,その包括徴収の内容につき,放送使用料の金額の算定に管理楽曲の放送利用割合が反映されない本件包括徴収とするものと定めることによって,放送使用料の追加負担によって放送事業者による他の管理事業者の管理楽曲の利用を相当の長期間にわたり継続的に抑制したものといえる。このような放送使用料及びその徴収方法の定めの内容並びにこれらによって上記の選択の制限や利用の抑制が惹起される仕組みの在り方等に照らせば,参加人の本件行為は,別異に解すべき特段の事情のない限り,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものと解するのが相当である。

(4)したがって,本件審決の取消し後の審判においては,独占禁止法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」することという要件の該当性につき上記特段の事情の有無を検討の上,上記要件の該当性が認められる場合には,本件行為が同項にいう「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ものに該当するか否かなど,同項の他の要件の該当性が審理の対象になるものと解される。

解説

排除型私的独占

 独占禁止法25項によれば、「私的独占」とは、「事業者が、単独に、又は他の事業者と結合し、若しくは通謀し、その他いかなる方法をもつてするかを問わず、他の事業者の事業活動を排除し、又は支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」である。

排除行為の存在

 本件での争点は、JASRACの行為が「排除行為」に該当するか否かである。(1)最高裁は、NTT東日本事件を引用し、「本件行為が独占禁止法2条5項にいう「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するか否かは,本件行為につき,自らの市場支配力の形成,維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するものであり,他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にするなどの効果を有するものといえるか否かによって決すべきものである」と述べた上で、(2)本件行為は、「他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にする効果を有するものというべきである」として、排除行為の存在を認定した。

 この判決の特徴は、排除行為の認定に当たって、「実際に」競争者の事業活動を困難にしたり、「具体的に」競争者を市場から排除することを求めていないことであり、原審と立場を異にする点である。排除型私的独占ガイドライン第2の1(1)「事業者の行為が排除行為に該当するためには、他の事業者の事業活動が市場から完全に駆逐されたり、新規参入が完全に阻止されたりする結果が現実に発生していることまでが必要とされるわけではない。すなわち、他の事業者の事業活動の継続を困難にさせたり、新規参入者の事業開始を困難にさせたりする蓋然性の高い行為は、排除行為に該当する。」と定めており、この解釈方針を支持したものと考えられる。

競争の実質的制限

 次に、25項の要件である「一定の取引分野における競争を実質的に制限する」ことについては、JASRACは、管理楽曲の放送利用に係る利用許諾に関する市場において、独占的地位にあり、他の事業者の放送使用料の額および徴収方法を制限することができる状態をもたらしており、市場支配力の形成、維持、強化がされていると考えられる。

公共の利益

 25項の「公共の利益に反して」という要件は、特段の事情の有無の判断と重複する。本件行為が、正当化される特段の事情が存在するかという点が検討される。最高裁は、(1)他の事業者が包括徴収の方法によらざるを得ない状況、(2)放送事業者による他の音楽著作権管理事業者の管理楽曲の利用を抑制させている状況が改善されなければ、本件行為は「排除行為」に該当すると判示しているように思える。そして最高裁は、特段の事情の判断につき、差し戻し審判に委ねた。

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