民法改正と定型約款の概要

平成29年5月26日、民法の一部を改正する法律(平成29年法律第44号)が成立した。今回の改正は、一部の規定を除き、平成32年(2020年)4月1日から施行される。今回の改正により、民法典に「定型約款」に関する規定が新設された。定型約款に関する規定は、国民の生活に直接関わる部分も多いためどのような規定が存在するか確認しておく必要がある。以下では、新民法の定型約款に関する規定について解説するとともに、消費者への影響について検討を加える。

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契約の種類

まず、約款に関する契約の類型について確認する。契約には、(1)契約一般、(2)約款による契約、(3)定型約款による契約がある。

(1)契約一般が、当事者が交渉を行い合意した内容を契約とするものである。企業同士のジョイント・ベンチャー契約、共同開発契約などは当事者同士が交渉を行い、合意し、契約を締結することが多い。

(2)約款とは、多数の取引に対して一律に適用するために事業者により作成され、あらかじめ定型化された契約条項のことである。保険契約、運送契約、銀行取引契約などの同種の取引が大量、反復、継続して行われる場合に、企業が取引を合理的に処理するために利用される。

(3)定型約款による契約は、約款の中でも特に定型取引において用いられるものである。定型取引とは、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」である。「不特定多数の者を相手方とする」ということが要件とされていることが特徴であり、保険契約銀行取引契約といった多数の消費者を相手方とするような取引がこれに当たる。

3つの関係は以下のように整理することができる。

出典:吉川吉衛「定型約款の規定に関する解釈」国士舘法学49号(2016年)101頁。

定型約款について

では、ここから定型約款の規定について見ていく。定型約款の規定は、新民法の548条の2から548条の4までの3つがある。各条項について解説していく。

定型約款の合意

548条の2

1.定型取引(ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なものをいう。以下同じ。)を行うことの合意(次条において「定型取引合意」という。)をした者は、次に掲げる場合には、定型約款(定型取引において、契約の内容とすることを目的としてその特定の者により準備された条項の総体をいう。以下同じ。)の個別の条項についても合意をしたものとみなす。

(1)定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。

(2)定型約款を準備した者(以下「定型約款準備者」という。)があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。

2.前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

定型約款とは

548条の2第1項によれば、「定型約款」とは、次の要件を満たすものを指す。

  1. 「定型取引において」
  2. 「契約の内容とすることを目的として」
  3. 「その特定の者により準備された条項の総体」

1. 定型取引とは、「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引であって、その内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」である。

「ある特定の者が不特定多数の者を相手方として行う取引」とは、相手方の個性に着目せずに行う取引であるか否かによって判断される。

取引の「内容の全部又は一部が画一的であることがその双方にとって合理的なもの」であるとは、「(1)多数の相手方に対して同一の内容で契約を締結することが通常であり、かつ、(2)相手方が交渉を行わず、一方当事者が準備した契約条項の総体をそのまま受け入れて契約の締結に至ることが取引通念に照らして合理的である取引」をいう。「内容の全部又は一部が画一的である」ことは、定型約款の条項とは異なる合意をした場合には、当該部分は定型約款の条項として扱われないことを意味する。別段の合意がなされた部分に関しては、定型約款の諸規定は適用されない。

2. 「契約の内容とすることを目的として」とは、定型約款を契約の内容に組入れることを目的とすることを意味する。

3. 「その特定の者により準備された条項の総体」における「その特定の者」とは、定型取引の当事者の一方を指し示す。よって、「約款」の定義よりも狭い定義になっていることが分かる。

以上の要件を満たすものが定型約款であり、例えば、生命保険約款、損害保険約款、旅行業約款、宿泊約款、運送約款、預金規定、コンピュータ・ソフトウェアの利用規約などがある。

定型約款のみなし合意

548条の2第1項によれば、次の場合に定型約款が契約の内容となることに合意したものとみなされる(みなし合意)。

  1. 定型約款を契約の内容とする旨の合意をしたとき。
  2. 定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していたとき。

1. 「定型約款を契約の内容とする旨の合意をした」とは、定型約款の条項を契約の内容に組入れることに合意したことを指す。

2. 「定型約款を準備した者があらかじめその定型約款を契約の内容とする旨を相手方に表示していた」とは、言葉通り、定型約款準備者が定型約款を相手方に対してあらかじめ表示することである。この表示によって、定型約款が契約の内容となることに対して相手方が黙示の同意を与えたと理解することができる。

要するに、相手方が、定型約款が契約の内容となることに対して、明示あるいは黙示の同意を与えていることが要件となる

なお、取引自体の公共性が高く、かつ、約款による契約内容の補充の必要性が高い一定の取引で用いられる定型約款については、定型約款準備者が、定型約款により契約内容が補充されることをあらかじめ公表していた場合には、相手方は定型約款の個別の条項について合意したものとみなされる。例えば、鉄道・軌道・バス等による旅客運送取引、高速道路等の通行に関する取引、郵便事業や電気通信事業に関する取引(鉄道営業法18条の2、軌道法27条の2、海上運送法32条の2、道路運送法87条、航空法134条の3、道路整備特別措置法55条の2)がある。

いずれの場合においても、相手方が定型約款の具体的な条項について認識している必要はない。

不当条項規制

548条の2第2項によれば、(1)「相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって」、(2)「その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったもの」とみなされる。これは、不当条項及び相手方に不意打ちとなる条項を排除するための規定である。

(1)、(2)は消費者契約法10条と同様の枠組みを採用するものである。

消費者契約法10条

消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第一条第二項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。

しかし、消費者契約法10条が契約の条項を無効にするのに対し、548条の2第2項は、そもそも不当条項は契約に組入れられないことを意味する。さらに、「その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったもの」というのは、消費者契約法10条における不当条項規制が事業者・消費者間の構造的な情報の格差・交渉力格差を基礎に据えたものであるのとは異なり、合意内容の希薄性(契約の内容を具体的に認識しなくても定型約款の個別の条項について合意したものとみなされるという定型約款の特性)、契約締結の様態や、健全(合理的)な取引慣行その他取引全体に関わる事情を広く考慮に入れて当該条項の不当性の有無が判断される。これは、契約解釈、当事者の合理的意思の推測、信義則などの方法により条項の不当性を判断するという裁判例のとってきた方法を踏襲するものである。