合憲限定解釈-広島市暴走族追放条例事件

日本国内には、数えきれないほどの法律があり、本来はそのすべてが憲法に適合したものでなければならない。そうはいっても、条例等が憲法の規則に反してしまうことも多く、その度に条例を改廃するのも大変である。そのため、裁判所は条文を憲法に適合するように解釈をして違憲判断を回避することがある。これを合憲限定解釈という。

合憲限定解釈とは

合憲限定解釈とは、法律の解釈として複数の解釈が可能な場合には、憲法に適合する解釈が採られなければならないという準則のことをいう。かつて裁判所は、「法律の規定は、可能なかぎり、憲法の精神にそくし、これと調和しうる よう、合理的に解釈されるべき」として法律の合憲限定解釈の立場を示したことがある(都教組事件 最大判昭和44・4・2)。しかし、この合憲限定解釈に対して、「不明確な限定解釈は、 かえつて犯罪構成要件の保障的機能を失わせることとなり、その明確性を要請する 憲法三一条に違反する疑いすら存する」としている(全農林警職法事件 最大判昭和48・4・25)。このように合憲限定解釈は、法律の予見機能を失わせる危険性があり、立法者の意思を超えた解釈がなされ、立法者の意思とは異なる条文にする法律の書き換えの問題が生じうる立法権の簒奪

この合憲限定解釈が問題になった判例として広島市暴走族追放条例事件(最判平成19・9・18)がある。

広島市暴走族追放条例事件

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【事実】

広島市暴走族追放条例(平成14年広島市条例39号)16条1項は、「何人も、次に掲げる行為をしてはならない」とし、その1号において、「公共の場所において、当該場所の所有者又は管理者の承諾又は許可を得ないで、公衆に不安又は恐怖を覚えさせるようない集又は集会を行うこと」と規定する。そして17条で「前条第1項第1号の行為が、本市の管理する公共の場所において、特異な服装をし、顔面の全部若しくは一部を覆い隠し、円陣を組み、又は旗を立てる等威勢を示すことにより行われたときは、市長は、当該行為者に対し、当該行為の中止又は当該場所からの退去を命ずることができる」、19条で「第17条の規定による市長の命令に違反した者は、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する」と規定する。また、本条例2条7号は、暴走族を「暴走族 暴走行為をすることを目的として結成された集団又は公共の場所において、公衆に不安若しくは恐怖を覚えさせるような特異な服装若しくは集団名を表示した服装で、い集、集会若しくは示威行為を行う集団をいう」と定義する。

Xは、暴走族構成員約40名と共謀し、広島市が管理する公共広場において、広島市長の許可を得ないで、所属する暴走族のグループ名を刺繍した特攻服を着用し、顔面の全部または一部を覆い隠し、円陣を組み、旗を立てる等威勢を示し、公衆に不安または恐怖を与えるような集会を行い、広島市長の権限を代行する広島市職員から警告の後中止・退去命令を受けたがこれに従わなかったため、上記命令に違反したとして逮捕・起訴された。第一審、第二審とも、Xを有罪とし、Xが上告した。

【判旨】

上告棄却。本条例は,暴走族の定義において社会通念上の暴走族以外の集団が含 まれる文言となっていること,禁止行為の対象及び市長の中止・退去命令の対象も 社会通念上の暴走族以外の者の行為にも及ぶ文言となっていることなど,規定の仕方が適切ではなく,本条例がその文言どおりに適用されることになると,規制の対象が広範囲に及び,憲法21条1項及び31条との関係で問題があることは所論のとおりである。しかし,本条例19条が処罰の対象としているのは,同17条の市長の中止・退去命令に違反する行為に限られる。そして、本条の目的規定である1条や5条、6条が『暴走族』を想定しているほか、本条例には,暴走行為自体の抑止を眼目としている規 定も数多く含まれている。また,本条例の委任規則である本条例施行規則3条は, 「暴走,騒音,暴走族名等暴走族であることを強調するような文言等を刺しゅう, 印刷等をされた服装等」の着用者の存在(1号),「暴走族名等暴走族であること を強調するような文言等を刺しゅう,印刷等をされた旗等」の存在(4号),「暴走族であることを強調するような大声の掛合い等」(5号)を本条例17条の中止命令等を発する際の判断基準として挙げている。このような本条例の全体から読み取ることができる趣旨,さらには本条例施行規則の規定等を総合すれば,本条例が 規制の対象としている「暴走族」は,本条例2条7号の定義にもかかわらず,暴走行為を目的として結成された集団である本来的な意味における暴走族の外には,服装,旗,言動などにおいてこのような暴走族に類似し社会通念上これと同視することができる集団に限られるものと解され,したがって,市長において本条例による 中止・退去命令を発し得る対象も,被告人に適用されている「集会」との関係で は,本来的な意味における暴走族及び上記のようなその類似集団による集会が,本条例16条1項1号,17条所定の場所及び態様で行われている場合に限定されると解される。

そして,このように限定的に解釈すれば,本条例16条1項1号,17条,19条の規定による規制は,広島市内の公共の場所における暴走族による集会等が公衆の平穏を害してきたこと,規制に係る集会であっても,これを行うことを直ちに犯罪として処罰するのではなく,市長による中止命令等の対象とするにとどめ,この命令に違反した場合に初めて処罰すべきものとするという事後的かつ段階的規制によっていること等にかんがみると,その弊害を防止しようとする規制目的の正当性,弊害防止手段としての合理性,この規制により得られる利益と失われる利益との均衡の観点に照らし,いまだ憲法21条1項,31条に違反するとまではいえない。

評価

本件で問題になるのは、条例の明確性広範性に関する違憲問題である。判決は、明確性については、「各規定の文言が不明確であるとはいえない」とするのみであり、広範性に主眼が置かれている。条例2条7号の定義にもかかわらず、「暴走族」を「本来的な意味における暴走族の外には,服装,旗,言動などにおいてこのような暴走族に類似し社会通念上これと同視することができる集団」と限定解釈している。また、16条1項1号が「何人」と規定しているにも拘わらず、規制の対象を限定解釈した「暴走族」による「集会」とし、本条例を合憲としている。

表現の自由については、「①その解釈により、規制の対象となるものとそうでないものとが明確に区別され、かつ、合憲的に規制し得るもののみが規制の対象となることが明ら かにされる」こと、また、「②一般国民の理解において、具体的場合に 当該表現物が規制の対象となるかどうかの判断を可能ならしめるような基準をその 規定から読みとることができる」ことが必要となる(税関検査訴訟判決 最大判昭和59・12・12)。②について、本件の多数意見では限定解釈の内容が一般国民にも理解可能であればよいとする一方で、反対意見では、一般国民が法文の規定から限定解釈に達することが必要としている(藤田裁判官)。つまり、文言の本来的な意味か、条例上の意味いずれを採用するかで対立が生じる。

本件のような明らかに規制の対象となるような暴走族の集会であるならば、合憲限定解釈による被告人への不利益は存在しないという実質的な考慮が存在するため、このような限定解釈は一定の合理性を有するが、憲法問題として考えれば、このような解釈は許されないだろう。なぜなら、委縮効果を除去するためには、国民が予見できなければならず、国民は、本条例上の定義から、暴走族以外にも規制が及ぶと考えるのが通常だろう。

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