公務員の政治活動

国民は主権の担い手ですので,参政権を有します.公務員も国民ですので参政権が認められます.しかし,公務員が政治活動のために、デモンストレーションやストライキを行ってしまうと,日常生活に必要な公務が行われなくなり,社会に混乱が生じてしまいます.果たして公務員の政治活動はどの程度まで認められるのでしょうか.

公務員の政治活動の禁止

国家公務員の政治活動は,国家公務員法102条1項により禁止されています.

職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

この規定が憲法上の問題として争われた事件が猿払事件(最大判昭和49・11・6)と堀越事件(最判平成24・12・7)です.

猿払事件

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【事実】

Xは,北海道宗谷郡猿払村の鬼志別郵便局に勤務する郵政事務官で,猿払地区労働組合協議会事務局長を務めていた.Xは、1967年(昭和42年)1月8日告示の第31回衆議院議員総選挙に際し,労働組合協議会の決定にしたがい,日本社会党を支持する目的をもって,同日同党公認候補者の選挙用ポスター6枚を自ら公営掲示場に掲示したほか,その頃4回にわたり、右ポスター合計約184枚の掲示方を他に依頼して配布した.

【判旨】

(1)憲法21条の保障する表現の自由は,民主主義国家の政治的基盤をなし,政治的行為も同条の補償を受ける.(2)しかし,国公法102条1項及び規則による政治的行為の禁止は,もとより国民一般に対して向けられているものではなく,公務員のみに対して向けられているものであり,公務員は全体の奉仕者である.そのため,行政は政治的偏向を排除して運営されなければならない.つまり,行政の中立的運営が確保され,国民の信頼が維持されることは憲法の要請するところであり,公務員の政治的中立性は,国民の重要な利益である.したがって,公務員の政治的中立性を損うおそれのある公務員の政治的行為を禁止することは,それが合理的で必要やむをえない限度にとどまるものである限り,憲法の許容するところであるといわなければならない.(3)国公法102条1項及び規則による政治的行為の禁止が,合理的で必要やむをえない限度にとどまるものか否かは,禁止の目的,この目的と禁止される政治的行為との関連性,政治的行為を禁止することにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡の三点から検討することが必要である.

(4)禁止の目的及びこの目的と禁止される政治的行為との関連性について検討すると,行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するため,公務員の政治的中立性を損なうおそれのある政治行為を禁止することはまさしく憲法の要請に応え,公務員を含む国民全体の共同利益を擁護するための措置に他ならないのであって,その目的は正当なものというべきである.また,右のような弊害の発生を防止するため,公務員の政治的中立性を損なうおそれがあると認められる政治的行為を禁止することは,禁止目的との間に合理的な関連性があるものと認められる.たとえその禁止が,公務員の職種・職務権限,勤務時間の内外,国の施設の利用の有無等を区別することなく,あるいは行政の中立的運営を直接,具体的に損う行為のみに限定されていないとしても,右の合理的な関連性が失われるものではない.

(5)次に利益の均衡の点について考えてみると,民主主義国家においては,できる限り多数の国民の参加によつて政治が行われることが国民全体にとつて重要な利益であることはいうまでもない.しかしながら,公務員の政治的中立性を損うおそれのある行動類型に属する政治的行為を,これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく,その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは,同時にそれにより意見表明の自由が制約されることにはなるが,それは,単に行動の禁止に伴う 限度での間接的、付随的な制約に過ぎず,かつ,国公法102条1項及び規則の定める行動類型以外の行為により意見を表明する自由までをも制約するものではなく, 他面,禁止により得られる利益は,公務員の政治的中立性を維持し,行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保するという国民全体の共同利益なのであるから,得られる利益は,失われる利益に比してさらに重要なものというべきであり, その禁止は利益の均衡を失するものではない.

(6)したがつて,国公法102条1項及び規則5項3号,6項13号は,合理的で必要やむをえない限度を超えるものとは認められず,憲法21条に違反するものということはできない.

評価

この判例の目的・関連性・均衡性から判断する分析枠組みは後の裁判例に大きな影響を与えたと言えます.しかし,いくつかの問題を抱えています.本判決では,行為と意見表明を区別し,「政治的行為を,これに内包される意見表明そのものの制約をねらいとしてではな く,その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは,同時にそれに より意見表明の自由が制約されることにはなるが,それは,単に行動の禁止に伴う 限度での間接的,付随的な制約に過ぎず・・・(5)」とし,軽微な行為の累積により現出する弊害を防ぐことを重視し,弊害を防ぐための禁止が,意見表明が制約されたとしても,それは間接的・付随的なものに過ぎないとしているが,この制約は明らかに意見表明の制約であると言えます.なぜなら,公務員の政治的行為が弊害をもたらすかもしれないのは,その行為がまさに「政治的」なものであり,その禁止は内容に基づく規制,つまり,意見表明の直接的な制約と言わざるを得ないからです.

また,「その禁止が,公務員の職種・職務権限,勤務時間の内外,国の施設の利用の有無等を区別することなく,あるいは行政の中立的運営を直接,具体的に損う行為のみに限定されていないとしても,右の合理的な関連性が失われるものではない・・・(4)」と述べています.しかし,郵政が民営化されている今日,職種等の区別をしなくとも禁止の目的との合理的な関連性(必要性)があるという判断は,説得力に欠けていると言わざるを得ません.

堀越事件

【事実】

Xは社会保険庁に年金審査官として勤務していた.平成15年11月9日施行の衆議院銀総選挙に際し,日本共産党を支持する目的で同党の機関紙「しんぶん赤旗」の号外等を個別配布した.この行為が,国家公務員法110条1項19号・102条1項,人事院規則の定める政治的行為に当たるとして起訴された.

【判旨】

(1)公務員に対する政治的行為の禁止は,国民としての政治活動の自由に対する必要やむを得ない限度にその範囲が画されるべきものである.

(2)国家公務員法102条1項にいう「政治的行為」とは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが,観念的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを差す.こうしたおそれが認められるか否かは,当該公務員の地位,その職務の内容や権限等,当該公務員がした行為の性質,態様,目的,内容等の諸般の事情を総合して判断するのが相当である.

(3)公務員の職務の遂行の政治的中立性を保持することによって行政の中立的運営を確保し,これに対する国民の信頼を維持することにあるところ,これは,議会制民主主義に基づく統治機構の仕組みを定める憲法の要請にかなう国民全体の重要な利益というべきであり,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為を禁止することは,国民全体の上記利益の保護のためであって,その規制の目的は合理的であり正当なものといえる.禁止の対象とされるものは,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められる政治的行為に限られ,このようなおそれが認められない政治的行為や本規則が規定する行為類型以外の政治的行為が禁止されるものではないから,その制限は必要やむを得ない限度にとどまり,前記の目的を達成するために必要かつ合理的な範囲のものというべきである.

(4)Xによる本件配布行為は,「管理職的地位になく,その職務の内容や権限に裁量の余地のない公務員によって,職務と全く無関係に,公務員による組織される団体の活動としての性格もなく行われたものであり,公務員による行為と認識しうる態様で行われたものでもないから,公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが実質的に認められるものとはいえず,本件配布行為は本件罰則規定の構成要件に該当しない.

評価

本判決は,公務員の「政治的行為」を公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが,観念的なものにとどまらず,現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものとして,限定解釈を加えました.表現の自由の間接的・付随的正論に触れていない点で,猿払事件との区別がされています.そして,被告人Xの地位や職種,活動の性質に着目している点でも猿払事件とは異なります.

上告理由として猿払事件の判例違反が挙げられていますが,裁判所は事実の相違を根拠にその主張を否定しています.つまり,猿払事件においては,特定の地区の労働組合協議会事務局長である郵便局職員が,同労働組合協議会の決定に従って選挙用ポスターの掲示や配布をしたものであり,これは団体としての活動の性質を有するものであったとして,本件と猿払事件を区別しています.

裁判所は,堀越事件において判例変更がないとする立場ですが,合憲性の審査基準の違いを見れば実質的には変更があったものと看做されます.しかし,猿払事件で示された合憲性の判断基準はあまりにも緩やかであるため,堀越事件の審査基準は支持されるべきであります.

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