在監者の人権-「よど号」ハイジャック新聞記事抹消事件

特別権力関係

憲法によれば、日本国民ならば当然に人権を有する。しかし、公務員や在監者(刑務所等に収容されている人)に対しては、社会秩序の維持等の理由により特別に人権の制約が認められている。憲法上の人権とこのような人たちの関係を特別権力関係と呼ぶ。

かつては、在監者のような特別権力関係にある場合は、国家は法律の根拠なしに在監者の人権を制限することができると考えられていたが、この伝統的な見解には批判が多く、このような特別権力関係においても憲法の人権規定が適用されるとするのが、現在の原則である。在監関係においては、それを維持するために在監者の権利を制限すること、つまり拘禁、戒護(逃亡・証拠隠滅・暴行・殺傷の防止・紀律維持等)及び受刑者の矯正教化という在監目的のための必要最低限な制限は認められる。問題は、在監者による新聞、図書の閲覧のような、一見在監関係に影響を与えないような行為を制限することが許容されるのかどうかである。この点について争われた事件が「よど号」ハイジャック新聞記事抹消事件(最大判昭和58・6・22)である。

「よど号」ハイジャック新聞記事抹消事件

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事実

Xらは、昭和44年の国際反戦デー闘争に関連して凶器準備集合罪などで起訴され、東京拘置所に拘留されていたが、私費で読売新聞を定期購読していた。しかし、昭和45年3月31日付夕刊から4月2日付朝刊まで赤軍派学生が日航機「よど号」を乗っ取った事件について塗りつぶされた新聞を配布された。監獄法31条2項は、「文書、図面の閲読に関する制限は命令を以て之を定む」と規定し、監獄法施行規則86条1項は、「拘禁の目的に反せず且つ監獄の紀律に害なきものに限り之を許す」と定めている。東京拘置所長は、在監者がこのニュースに刺激を受けて喧騒・騒擾行為に出るおそれがあるという理由で、一連の記事を抹消したのである。Xらはこれに対し、「知る権利」の侵害だとして監獄法31条2項及び同施行規則86条1項の違憲を主張した。1審は合憲と判示、2審も1審を全面的に支持し、Xが上告した。

判旨

上告棄却。
監獄は、多数の被拘禁者を外部から隔離して収容する施設であり、右施設内でこれらの者を集団として管理するにあたつては、内部における規律及び秩序を維持し、その正常な状態を保持する必要があるから、この目的のために必要がある場合には、未決勾留によつて拘禁された者についても、この面からその者の身体的自由及びその他の行為の自由に一定の制限が加えられることは、やむをえない。そして、この場合において、これらの自由に対する制限が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、右の目的のために制限が必要とされる程度と、制限される自由の内容及び性質、これに加えられる具体的制限の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである
意見、知識、情報の伝達の媒体である新聞紙、図書等の閲読の自由が憲法上保障されるべきことは、思想及び良心の自由の不可侵を定めた憲法19条の規定や、表現の自由を保障した憲法21条の規定の趣旨、目的から、いわばその派生原理として当然に導かれる。しかしながら、それぞれの場面において、これに優越する公共の利益のための必要から一定の合理的制限を受けることがある。未決勾留により監獄に拘禁されている者の新聞紙、図書等の閲読の自由についても、逃亡及び罪証隠滅の防止という勾留の目的のためのほか、監獄内の規律及び秩序の維持のために必要とされる場合にも、一定の制限を加えられることはやむをえない。
右の制限が許されるためには、当該閲読を許すことにより右の規律及び秩序が害される一般的、抽象的なおそれがあるというだけでは足りず、被拘禁者の性向、行状、監獄内の管理、保安の状況、当該新聞紙、図書等の内容その他の具体的事情のもとにおいて、その閲読を許すことにより監獄内の規律及び秩序の維持上放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があると認められることが必要であり、かつ、その場合においても、右の制限の程度は、右の障害発生の防止のために必要かつ合理的な範囲にとどまるべきものと解するのが相当である。
監獄法31条2項及び同施行規則86条1項は、上に述べた要件及び範囲内でのみ閲読の制限を許す旨を定めたものと解するのが相当であり、憲法に違反しない。本件についてみると、前記事実関係、殊に本件新聞記事抹消処分当時までの間においていわゆる公安事件関係の被拘禁者らによる東京拘置所内の規律及び秩序に対するかなり激しい侵害行為が相当頻繁に行われていた状況に加えて、本件抹消処分に係る各新聞記事がいずれもいわゆる赤軍派学生によつて敢行された航空機乗つ取り事件に関するものであること等の事情に照らすと、東京拘置所長において、公安事件関係の被告人として拘禁されていた上告人らに対し本件各新聞記事の閲読を許した場合には、拘置所内の静穏が攪乱され、所内の規律及び秩序の維持に放置することのできない程度の障害が生ずる相当の蓋然性があるものとしたことには合理的な根拠があり、また、右の障害発生を防止するために必要であるとして右乗つ取り事件に関する各新聞記事の全部を原認定の期間抹消する措置をとつたことについても、当時の状況のもとにおいては、必要とされる制限の内容及び程度についての同所長の判断に裁量権の逸脱又は濫用の違法があつたとすることはできない

評価

本判決では、「相当の蓋然性」というかなり厳格な基準が提示されているが、新聞の閲読制限が事前抑制という点を考えれば妥当な結論だと思う。しかし、制限については合理性基準ではなく、必要最小限の規制にとどまるべきだと思われる。

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