監査等委員会設置会社のガバナンス

はじめに

2014年6月の会社法の改正により,監査役会設置会社,指名委員会等設置会社に続く,コーポレートガバナンスの体制として監査等委員会設置会社の制度が導入された.現在まで多数の企業が監査等委員会設置会社に移行をしている.他方で,コーポレートガバナンスの観点から監査等委員会設置会社の制度上の課題も指摘されている.本稿では,監査等委員会設置会社の特徴を踏まえた上で,コーポレートガバナンスの観点から監査等委員会設置会社が果たす役割を検討するとともに,監査等委員会設置会社の在り方について提言することとしたい.

Ⅰ. 監査等委員会設置会社の概要

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1.監査等委員会設置会社の導入の経緯

我が国の株式会社の組織形態は,伝統的に監査役設置会社が主流であった.しかしながら,監査役は,業務執行取締役に対する人事権,指揮・監督の権限を有しておらず,監査機能に限界があった.他方,取締役会は,伝統的に内部取締役が中心であり,業務執行取締役の監督機能が十分に発揮されないという問題があった[i]

そのような問題意識を踏まえ,平成14年に,社外取締役が過半数を占める3つの委員会(監査委員会,指名委員会,報酬委員会)に業務の監査・監督の権限を委ねる,委員会等設置会社が導入された.一方で,会社には,指名及び報酬に関する権限を,社外取締役を過半数とする委員会に委ねることに対する抵抗感があり[ii],指名委員会等設置会社の形態は普及しなかった.そのため,海外投資家を中心に,日本企業は,独立的立場からの経営陣の監督が不十分であり,ガバナンスの改革が求められた.

そこで平成26年会社法改正により,監査等委員会設置会社は,監査役会設置会社と指名委員会等設置会社の制度の中間的なガバナンスとして設立された[iii].株式会社は,定款の定めにより,監査等委員会を置くことができる(会社法(以下,「法」)326条2項).監査等委員会設置会社は,取締役会設置会社であるが(法327条1項3号),監査役は設置されず(同条4項),監査等委員である取締役とそれ以外の取締役とを区別して選任された取締役(法329条2項)が,監査等委員会を組織する(法399条の2第1項・2項).監査等委員会は,取締役の職務の執行を監査するほか(同条3項1号),取締役の人事や報酬について,一定の監督権限を行使する(同項3号).

2.監査等委員会設置会社及び指名委員会等設置会社との比較

以上のように,監査等委員会設置会社は,従来の監査役設置会社,指名委員会等設置会社の問題を踏まえた上で,それらを改善する目的をもって創設された制度である.以下では,従来の監査役会設置会社と指名委員会等設置会社との比較を行う.

(1)監査役会設置会社との比較

ガバナンスという点において,監査役会設置会社では,取締役の職務執行に対して,取締役会から独立した監査役が監査を行う.一方で,監査等委員会設置会社においては,監査等委員会が取締役の職務執行に対して監査を行う.すなわち,監査役会設置会社における監査役・監査役会の役割のすべてと取締役会の役割の一部が監査等委員会に一元化される[iv]

(2)指名委員会等設置会社との比較

指名委員会等設置会社においては,一部の事項を除き,取締役会の決議によって,業務執行の決定を執行役に委任することができる(416条4項).また,監査等委員会設置会社においては,定款(取締役の過半数が社外取締役である場合には,その決議)によって,業務執行の決定を個々の取締役に委任することができる(法399条の13第5項・6項).この点では,監査等委員会設置会社と指名委員会等設置会社とでほぼ同様の取扱いをしている[v].しかし,指名委員会及び報酬委員会が,執行役に対する監督機関としての役割を担う.監査等委員会設置会社は委員会型ではあるが,指名委員会及び報酬委員会を設置する必要はない.

4.監査等委員会設置会社の特徴

上述のように,監査等委員会設置会社と監査役会設置会社,指名委員会等設置会社には,制度的な異同が存在するが,中でも監査等委員会設置会社に特徴的なものが以下である.

(1)監査等委員会の独立性

監査等委員会設置会社においては,監査等委員会は取締役の内部機関ではなく,監査等委員である取締役は,株主総会により,他の取締役と区別して選任・解任されるため(法329条2項,339条1項,344条の2第3項,309条2項7号),取締役会からの独立性が保持される[vi]

(2)監査等委員会の職務・権限等

監査役会設置会社及び指名委員会等設置会社との比較で監査等委員会設置会社を機能的に見れば,監査役に取締役としての地位を与え,取締役会における議決権と違法性監査,妥当性監査の権限を付与するものであると評価することができる[vii].監査等委員会は,事業年度ごとに監査報告を作成する(法399条の2第3項1号).また,取締役が株主総会に提出しようとする議案,書類その他法務省令で定められるものについて法令違反があると認めるときは,その旨を株主総会に報告しなければならない(法399条の5).

監査等委員会が選定する監査等委員は,いつでも,取締役及び支配人その他の使用人に対し,その職務の執行に関する事項の報告を求め,又は監査等委員会設置会社の業務及び財産の状況を調査することができ(法399条の3第1項),監査等委員会の職務を執行するために必要があるときは,子会社に対して事業の報告を求め,又はその子会社の業務及び財産の状況の調査をすることができる(同条2項).

(3)利益相反取引の承認

監査等委員会は,取締役の利益相反取引(法356条1項2号,3号)の承認をすることができる.監査等委員以外の取締役の利益相反取引が監査等委員会の承認を受けたときは,取締役の任務懈怠を推定する規定(法423条3項)が適用されず,一般原則通り,責任追及者が,任務懈怠を根拠づける事実を主張,立証しなければならない(同条4項).これは,社外取締役を主要な構成員とし,業務の監査権限(399条の2第3項1号),及び,一定の監督権限(同項3号)を有する監査等委員会の判断には,相当程度の信頼がおけるという認識の下に,司法審査の基準を緩和したものである[viii]

5.新制度移行へのインセンティブ

指名委員会等設置会社においては,指名委員会,報酬委員会を設置することのハードルが高く,その後の導入.移行がほとんど進まなかった.他方で,監査等委員会設置会社においては,以下のようなインセンティブが付与される.

(1)複数の社外取締役を新たに招聘することなく選任することができる

監査役会設置会社では,最低2名以上の社外監査役を設置する必要があり,さらに社外取締役を選任するとなると新たに社外役員を招聘する必要がある.他方で,監査等委員会設置会社においては,監査等委員は3名以上かつその過半数が社外取締役であることが必要であり,当然に2名以上の社外取締役が選任される.監査役設置会社の社外監査役が,監査等委員会設置会社の監査等委員である社外取締役に移る場合,新たに社外役員を招聘する必要がなくなる[ix]

(2)役員の削減

監査役設置会社においては,取締役3名以上,かつ,監査役3名以上,計6名以上により取締役を構成しなければならない()[x].一方で,監査等委員会設置会社では,業務執行取締役1名と監査等委員たる取締役3名の最低4名の取締役のみで足りる.

(2)常勤監査役の設置義務を負わない

監査役会設置会社においては,常勤監査役を設置する義務を負うが,監査等委員会設置会社では監査等委員として常勤の者を設置する義務を負わない.監査等委員である取締役は,3人以上で,その過半数は社外取締役でなければならない(法311条6項).監査等委員の全員が社外取締役であることも想定され,この場合には,社外取締役は基本的には非常勤であるため,常勤者が不在になることが考えられるからである[xi]

(3)機動的な意思決定

監査等委員会設置会社では,一定の要件を満たす場合に,業務執行を取締役に委任し,取締役会での決議事項を大幅に削減することができる(法399条の13第5項,6項).このことにより,迅速,機動的な業務執行が可能となる[xii]

(4)海外投資家からの高い評価

海外では,経営者の監督機能は社外取締役が中心となって担い,必要に応じて取締役会の決議によって業務執行者を更迭することを行う.監査役設置会社において社外監査役に議決権が付与されないことは,海外投資家の不信を募ることになっていた.この点,監査等委員会設置会社では,監査機能を担う監査等委員は取締役であるため,取締役会での議決権を有する

Ⅲ. 監査等委員会設置会社が抱える課題

1.監督機能の低下

監査等委員会設置会社においては,指名委員会等設置会社と同様に,重要な業務執行の決定は,(1)取締役の過半数が社外取締役である場合,又は,(2)取締役会の決議によって重要な業務執行の決定を取締役に大幅に委任することができる.

第一の要件を満たす場合,権限の委任が許される理由は,業務執行者からの独立性が制度的に担保された監査等委員会が取締役の人事につき株主総会で意見陳述権等を有することから,取締役会の業務執行者からの独立性がその構成上担保されているからである[xiii]

第二の要件を満たす場合,権限の委任が許される理由は,監査等委員会設置会社において,監査等委員である取締役の選任が他の取締役と区別して行われ,監査等委員会の過半数は社外要件を満たし,加えて,監査等委員会は,業務執行者を含む取締役の人事につき株主総会での意見陳述権を有し業務執行者への監督機能が強化されているからである[xiv]

しかし,監査等委員会と指名委員会等設置会社の取締役会の監督機能が同等であると評価することはできず[xv],また,その指名委員会等設置会社も他の機関設計と比べて優れた監督機能を発揮しているとはいえない[xvi].そのため,これほどの大きな権限を取締役へ委任することに対する懸念が存在する.

2.監査機能の低下

監査等委員会担当の常勤取締役が義務づけられておらず,監査役設置会社に比して監査機能ひいては監督機能が低下するとの懸念がある[xvii]

常勤の監査等委員の選定が義務づけられない理由は以下のように説明される.監査役が,通常自ら会社の業務・財産の調査等を行うという方法で監査等を行うことが想定されている.監査等委員会設置会社における監査は,常勤者による「実査」を想定せずに,会議体としての内部統制システムを利用した組織的な「システム監査」である[xviii].監査等委員会による監査は,内部統制システムが適切に構築され,有効に運営されているか確認し,内部監査部門(業務執行状況や内部統制システムの適切性・有効性の検証・評価等をその役割とする部門)から報告を受け,必要に応じて内部監査部門に対して具体的な指示を出すことにより行われる[xix].こうした監査手法の相違から,指名委員会等設置会社の監査委員会と同様に,常勤者を置かなくとも情報収集の面で問題がない[xx]

しかし,監査機能の要請は,内部統制部門のみに過度に依存することなく独自の情報収集と実査による深い違法性の監査にあり,監査等委員会設置会社における監査システムには制度的な弱点がある[xxi].また,監査等委員は,業務執行は禁止されているのであり,別系統のライン組織である内部監査部門との連携がスムーズにいく制度的保障はない[xxii]

3.利益相反取引の承認

監査等委員会設置会社において,監査等委員会の承認により,取締役の利益相反取引への任務懈怠推定規定が適用されない理由は,監査役設置会社の監査役や指名委員会等設置会社の監査委員会は,監査等委員会と異なり監査機能しか有せず,監督機能は有していないからであると説明される[xxiii].監査役会や監査委員会についても,取締役の違法行為等に対する差止請求権や会社と取締役との間における会社の代表権等の権限が法定されており,これらの権限は監査機能とは整理されない[xxiv]

Ⅲ.コーポレートガバナンスの基本的方針

コーポレートガバナンスの形態は,各国の文化,経済発展の状況や社会状況等によって異なるため,そのありようを規定する理念や原則の内容についても異なる.

(1)多様なステークホルダーの利害調整による持続的成長

(2)倫理感ある経営者による価値共有ガバナンスの確立

(3)不祥事防止と持続的成長の両立

(4)日本的経営の強みの確認とガバナンスへの反映

(5)ガバナンスに関する情報発信

Ⅳ.監査等委員会設置会社におけるコーポレートガバナンス

(1)監督の在り方

(1)監査の在り方

前述の通り,監査等委員会設置会社における監査においては,監査等委員は「監査をする人」ではなく「監査をさせる人」であり[xxv],監査に必要な情報を十分に収集することができない可能性がある.よって,監査機能を十分に高めるためには,監査等委員会設置会社においても常勤の監査等委員を選定することが望ましい.というのも,常勤の監査等委員ならば,社内出身者が多く,会社業務に精通しており,また,情報量や執務時間においても優位性が認められ,その立場に応じた監査機能の発揮が期待できるからである[xxvi]

[i] 荻野昭一,「監査等委員会設置会社制度創設の意義と課題」,『経済学研究』,65巻1号,2015年,7-8頁.

[ii] 法務省民事局参事官室,「会社法制の見直しに関する中間試案の補足説明」,2011年,3-4頁.

[iii] 伊藤靖史他,『会社法』,(有斐閣,2016年),211頁.

[iv]

[v] 郡谷大輔,「監査等委員会設置会社制度の創設」,『企業会計』,67巻3号,2015年,51頁.

[vi] 酒巻俊之,「監査等委員会設置会社の現状と課題」,『法律のひろば』,8月号,2016年,50頁.

[vii] 伊藤靖史他,『会社法』,(有斐閣,2016年),212頁.

[viii] 田中亘『会社法』,(東京大学出版会,2016年),305-306頁.

[ix] 日比谷パーク法律事務所 三菱UFJ信託銀行編,『監査等委員会設置会社の活用戦略』,(商事法務,2015),27-28頁

[x] 加えて,2015年6月から運用開始されたコーポレートガバナンス・コードでは,社外取締役を少なくとも2名以上選任すべきであると規定するため(「コーポレートガバナンス・コード~会社の持続的な成長と中長期的な企業価値の向上のために~」,18-19頁),業務執行取締役を複数名設置する会社においては,取締役会の構成人数は増加する.

[xi] 荻野昭一,「監査等委員会設置会社制度創設の意義と課題」,『経済学研究』,65巻1号,2015年,12頁.

[xii]日比谷パーク法律事務所 三菱UFJ信託銀行編,『監査等委員会設置会社の活用戦略』,(商事法務,2015),28-29頁

[xiii] 坂本三郎編,『一問一答・平成26年改正会社法』,(商事法務,2014年),61頁.

[xiv] 坂本三郎編,『一問一答・平成26年改正会社法』,(商事法務,2014年),62頁.

[xv] 前田雅弘,「監査役会と三委員会と監査・監督委員会」,江頭憲次郎編『株式会社法大系』,(有斐閣,2013年),273頁.

[xvi]

[xvii] 勝田和行,「『監査等委員会設置会社』のガバナンスを考える」,『日本経営倫理学会誌』,22号,2015年,155頁.

[xviii] 法務省民事局参事官室,「会社法制の見直しに関する中間試案の補足説明」,2011年,5頁.

[xix] 塚本英巨,「監査等委員会設置会社の監査体制」,『商事法務』,2099号,2016年,6頁.

[xx] 坂本三郎編,『一問一答・平成26年改正会社法』,(商事法務,2014年),37頁.

[xxi] 村田敏一,「監査等委員会設置会社の創設とその課題-不思議なコーポレートガバナンス-」,『立命館法学』,359号,2015年,280頁.

[xxii] 村田敏一,「監査等委員会設置会社の創設とその課題-不思議なコーポレートガバナンス-」,『立命館法学』,359号,2015年,280頁.

[xxiii] 坂本三郎編,『一問一答・平成26年改正会社法』,(商事法務,2014年),44頁.

[xxiv] 村田敏一,「監査等委員会設置会社の創設とその課題-不思議なコーポレートガバナンス-」,『立命館法学』,359号,2015年,283-284頁.

[xxv] 菅原貴与志,「監査等委員会設置会社:解釈上の論点と実務への影響」,『法學研究』,89巻,1号,(慶應義塾大学法学研究会,2016年),89頁.

[xxvi] 菅原貴与志,「監査等委員会設置会社:解釈上の論点と実務への影響」,『法學研究』,89巻,1号,(慶應義塾大学法学研究会,2016年),89頁.

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