未遂犯

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犯罪の3つの類型

犯罪の実現は、何らかの動機から犯罪の実行を決意し、その実現に向けて準備し、その意思を実行に移して結果を実現するという経過をたどる。

刑法においては準備段階以後の行為が処罰の対象となる。これには、(1)予備・陰謀罪、(2)未遂犯、(3)既遂犯の3つの類型が存在する。

予備・陰謀罪

予備

予備とは、犯罪の実現を目的として行われる謀議以外の方法による準備行為をいう。予備罪が成立するためには、主観的には犯罪の実現が目的であり、客観的には犯罪の実現を可能または容易にする行為を要する。

陰謀

陰謀とは、2人以上の者が一定の犯罪を実行することについて相談し合意に達することをいう。陰謀罪が成立するためには、単なる謀議では足りず合意の存在を要する。陰謀罪には、内乱陰謀罪(78条)、外患陰謀罪(88条)および私戦陰謀罪(93条)がある。

(予備及び陰謀)
第七十八条  内乱の予備又は陰謀をした者は、一年以上十年以下の禁錮に処する。

(予備及び陰謀)
第八十八条  第八十一条又は第八十二条の罪の予備又は陰謀をした者は、一年以上十年以下の懲役に処する。

(私戦予備及び陰謀)
第九十三条  外国に対して私的に戦闘行為をする目的で、その予備又は陰謀をした者は、三月以上五年以下の禁錮に処する。ただし、自首した者は、その刑を免除する。

未遂犯

未遂犯とは、犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった犯罪をいう

(未遂減免)
第四十三条  犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。

(未遂罪)
第四十四条  未遂を罰する場合は、各本条で定める。

未遂犯が成立する要件は、(1)犯罪の実行に着手したこと、(2)構成要件的結果が発生しなかったことである。ここにいう実行の着手とは、構成要件的結果発生に至る現実的危険を惹起する行為を開始することである実質的客観説)。刑法は、未遂犯については、「前条の罪の未遂は、罰する」と刑法各本条において規定するとともに、総則にも未遂犯の一般的規定を置くことによって、原則として未遂犯を処罰することを定める。未遂犯が認められる犯罪は、殺人罪、窃盗罪、強盗罪、詐欺罪、恐喝罪、背任罪等である。

既遂犯

既遂犯とは、実行行為によって犯罪が完全に実現されたものをいう

未遂犯

未遂犯の意義

未遂犯とは、犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった犯罪をいう。未遂犯を処罰する根拠は、構成要件的結果発生の現実的危険性にある。

未遂犯の種類には、以下の4つが存在する。

  1. 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった場合の未遂犯(障害未遂)
  2. 未遂にとどまった理由が自己の意思による場合の中止犯(中止未遂)
  3. 実行行為には着手したが実行行為そのものを終了しなかった場合の着手未遂
  4. 実行行為は終了したが結果は発生しなかった場合の実行未遂(終了未遂)

未遂犯の構成要件

実行の着手

未遂犯の構成要件の一つは、犯罪の実行に着手したこと、すなわち、実行行為の一部を開始することである。実行の着手とは、構成要件的結果の発生に至る現実的危険性を含む行為の開始を意味する(実質的客観説)。

窃盗罪における実行の着手

最高裁は、被告人が、電気器具商A方店舗内において、窃盗の目的で、小型懐中電灯を使用して現金が置いてあると思われる同店舗内のタバコ売場に近づき、金具を物色しようとしていた際、帰宅したAが被告人を発見したため、被告人はAを失血死させ、Aの妻を強打した、という事案において以下のように判示した(最決昭和40年3月9日刑集19巻2号69頁)。

被告人は昭和三八年一一月二七日午前零時四〇分頃電気器具商たる本件被害者方店舗内において、所携の懐中電燈により真暗な店内を照らしたところ、電気器具類が積んであることが判つたが、なるべく金を盗りたいので自己の左側に認めた煙草売場の方に行きかけた際、本件被害者らが帰宅した事実が認められるというのであるから、原判決が被告人に窃盗の着手行為があつたものと認め、刑法二三八条の『窃盗』犯人にあたるものと判断したのは相当である。

本判決は、窃盗罪の実行の着手時期について、行為者の主観面を考慮しつつ現実的危険性の観点から実行の着手を判断した点で実質的客観説に立つ。

強姦罪における実行の着手

最高裁は、被告人Xが、友人Yと共謀のうえ、夜間一人で道路を通行中のA女を強姦しようと企て、共犯者とともに、必死に抵抗する同女を被告人X運転のダンプカーの運転席に引きずり込み、運転席内でAの反抗を抑圧してA女を強姦した事案につき、「かかる事実関係のもとにおい
ては、被告人が同女をダンプカーの運転席に引きずり込もうとした段階においてすでに強姦に至る客観的な危険性が明らかに認められるから、その時点において強姦行為の着手があつたと解するのが相当であ」ると判示した(最決昭和45年7月28日刑集24巻7号585頁)。これは、実質的客観説の立場をより鮮明にした判決といえる。

早すぎた結果の発生

最高裁は、行為者らが被害者の殺害を企て、被害者にクロロホルムを吸引させて失神させ(第1行為)、その状態を利用して自動車で港まで運び、自動車ごと海中に転落させ(第2行為)、殺害しようと企てたが、被害者は既に第1行為によって死亡していた事案につき、第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであり、それに成功すれば以後の殺害計画の遂行上、障害となる特段の事情が存在せず、かつ、第1行為と第2行為とが時間的・場所的に近接・密接していることから、行為者が第1行為を開始した時点において既に殺人に至る客観的な危険性が明らかであり、殺人罪の実行の着手が認められると判示した(最決平成16年3月22日刑集58巻3号187頁)。

実行の着手時期が問題となる場合
不作為犯

不作為犯の実行の着手は、結果発生を防止すべき法律上の作為義務を負う者による作為義務違反の結果、結果発生の危険が切迫した段階に至った時点で認められる。結果発生の現実的危険が既に発生しているときは、作為義務違反が生じた時期、また、行為者の不作為によって結果発生の危険が生じるときは、作為義務違反によって結果発生の現実的危険が発生した時期に実行の着手が認められる。

間接正犯

間接正犯の実行の着手の時期について、学説には、(1)利用行為の時点で着手を認めるべきだとする利用者標準説、(2)被利用者が単独正犯であったならば着手が認められるであろう時点で着手を認める被利用者標準説、(3)個々の事例における結果発生の現実的危険性の発生時期により、利用行為の時点で着手が認められる場合と、被利用者の行為の時点で着手が認められる場合のいずれもありうるとする個別化説が存在する。

(1)利用者標準説は、間接正犯の実行行為はあくまで利用者の行為にあり、被利用者の行為は単なる因果経過に過ぎないから、間接正犯の実行の着手が利用者の行為の終了後に認められるはずがないということを根拠とする。(2)被利用者標準説は、未遂犯の処罰根拠を結果発生の具体的危険と解した上で、実効の着手は、結果発生が切迫した時点で認めるべきだということを根拠とする。(3)個別化説は、被利用者標準説が「切迫性」を重視するのに対し、結果発生が確実ないし蓋然的といえれば、それが切迫していることまでは必要でないとする考え方に基づく。

利用者が被利用者の行為を道具として利用する場合においても、必ずしも利用行為の開始が構成要件的結果発生の現実的危険性を惹起するわけではないから、利用者の誘致行為が結果発生の現実的危険を惹起したときに実行の着手があると解すべきであり、(3)個別化説が適切である。

大審院は、被告人が甲を殺害する目的で致死量の毒物を混入した砂糖を送付した事案につき、「毒物混入の砂糖は甲が之を受領したる時に於て同人又は其家族の食用し得べき状態の下に置かれたるものにして、既に毒殺行為の着手ありたるものと云ふを得べき」として被利用者標準説に立つ(大判大正7年11月16日刑録24輯1352頁)。

このような、行為者の行為と構成要件的結果発生との間に、時間的・場所的間隔の存在する犯罪を離隔犯という。このような事例類型においては、利用者標準説は発送時説と、被利用者標準説は到達時説と対応する。本判決は、一般に到達時説を採用したものと理解されているが、同説にしたがって着手を否定した事例ではない。

判例は、本判決を含め一貫して到達時説を採用する(大判明治43年6月23日刑録16輯1276頁、大判大正3年6月20日刑録20輯1289頁、大判大正5年8月28日刑録22輯1332頁)。しかし、下級審判例の中には発送時説を採用したと評価されるものもある。郵便局の郵便物区分の業務に従事していた者が他人宛ての郵便物の在中物を窃取しようと企て、ひそかに郵便物の宛名等を書き換え、情を知らない配達担当者を利用して郵便物を入手しようとした事案において、弁護人は、「郵便物が被告人の自宅に配達されたときか又はこれに近接した状態のときに始めて窃盗の着手時期があったものと考えるのが妥当」と主張したが、東京高等裁判所は、これを否定し、郵便物区分棚に宛名を書き換えた郵便物を置いた時点で実行の着手を認める(東京高判昭和42年3月24日高刑集20巻3号229頁)。この判決は発送時説に立つ、と評価するものもある。

原因において自由な行為

原因において自由な行為とは、完全な責任能力を有さない結果行為によって構成要件該当事実を惹起した場合に、それが、完全な責任能力を有していた原因行為に起因することを根拠に、行為者の完全な責任を問う、という法理である。原因において自由な行為の実行の着手については、(1)責任能力のある状態における原因行為に求める説、(2)責任無能力または限定責任能力状態における結果行為に求める説がある。不作為犯および過失犯については、原因行為の開始時点に実行の着手を認め、故意の作為犯については、原則として結果行為の開始時点に実行の着手を認めるべきである。

結合犯

結合犯とは、それぞれ独立して犯罪となる数個の行為を結合して、法律上一つの犯罪としたものである。強盗犯人が強盗の際に人を殺した場合は、強盗罪(236条)と殺人罪(199条)が別個に成立するのではなく、強盗殺人罪(240条)の一つが成立する。一定の手段を要件とするため、その手段となる行為を行えば結果発生の現実的危険が発生するから、その時点で実行の着手が認められる。

構成要件的結果の不発生

未遂犯の構成要件のもう1つは、「これを遂げなかった」こと、すなわち、構成要件的結果が発生しなかったことを要する。構成要件的結果の不発生には以下の2つの類型がある。

  1. 実行行為には着手したが実行行為そのものを終了しなかった場合の着手未遂
  2. 実行行為は終了したが結果は発生しなかった場合の実行未遂