法律の読み方

わが国には,約1900件もの法律が存在します.そして,我々の日常生活においても常に法律が登場します.例えば,コンビニエンスストアでお茶を買うという行為も一種の契約であり,民法の規律に服します.しかしながら,普段生活を送っていて法律を参照したりするということはない人が多いと思います.実際それで不便はないとも思います.ですが,法律を知るということは国民の義務ともいえます.特に刑法などについて見れば,法律を知らなかったから犯罪を犯したという言い訳は通用しません.本記事では,法律の基本的な読み方,用語の意味を解説します.

法律の趣旨・目的

法律の内容を理解するためには,その法律が制定された趣旨・目的を知る必要があります.多くの法律の1条には,その法律の趣旨・目的が規定されています.例えば消費者契約法1条では次のように規定します.

(目的)
第一条  この法律は、消費者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差にかんがみ、事業者の一定の行為により消費者が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができることとするとともに、事業者の損害賠償の責任を免除する条項その他の消費者の利益を不当に害することとなる条項の全部又は一部を無効とするほか、消費者の被害の発生又は拡大を防止するため適格消費者団体が事業者等に対し差止請求をすることができることとすることにより、消費者の利益の擁護を図り、もって国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

これを見れば,消費者契約法の目的が,「国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展」にあることが分かります.民法等の古い法律には,目的が規定されていないことが多いのですが,原則が示されています.

(基本原則)
第一条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は、これを許さない。

このような原則は,様々な法律関係に妥当するので,非常に重要な条項と言うことができます.法律が何のために,何を対象に作成されたかを知ることは,法律を正しく読み,理解し,運用する上で非常に重要な要素となります.

定義

趣旨・目的の後には,定義が規定されていることが多いです.消費者契約法では2条で規定されています.

(定義)
第二条  この法律において「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。
2  この法律(第四十三条第二項第二号を除く。)において「事業者」とは、法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人をいう。
3  この法律において「消費者契約」とは、消費者と事業者との間で締結される契約をいう。
4  この法律において「適格消費者団体」とは、不特定かつ多数の消費者の利益のためにこの法律の規定による差止請求権を行使するのに必要な適格性を有する法人である消費者団体(消費者基本法 (昭和四十三年法律第七十八号)第八条 の消費者団体をいう。以下同じ。)として第十三条の定めるところにより内閣総理大臣の認定を受けた者をいう。

このような定義規定は,法律全体の約束事となるので,非常に重要です.日常生活で一般的に与えられる意味とは異なる,あるいは,意味が加えられていることもあります.

条文の構造

多くの条文には,丸かっこ()内に条文の内容を示した見出しが書かれています.但し,日本国憲法や刑事訴訟法など昭和23年以前の制定法には見出しが付けられていません.民法の公序良俗の規定は以下の通りです.

(公序良俗)
第九十条  公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする。

「第〇条」を条名と言います.法改正によって,新しい条文が追加された場合は,「第〇条の〇」というように枝番号が付けられます.条文を追加するごとに条名の番号を繰り下げることは,実務上の困難を伴うため,このような方式が採られています.民法32条の失踪の宣告の取消しの後には,同時死亡の推定の規定が追加されています.

(失踪の宣告の取消し)
第三十二条  失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
2  失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。

第三十二条の二  数人の者が死亡した場合において、そのうちの一人が他の者の死亡後になお生存していたことが明らかでないときは、これらの者は、同時に死亡したものと推定する。

条の中を細分化する場合は,が使われます.刑法12条の懲役の規定は次のように細分化されています.

(懲役)
第十二条  懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。
2  懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。

この規定からわかるように,1項にあたる場所には何も記載されていません.販売されている六法には①の数字で1項を示していることが多いです.2項以下はアラビア数字で項番号が示されています.

条あるいは項の中で列挙して記載する必要がある事項はを用いて表されます.刑法19条では,没収するできる物について列記しています.

(没収)
第十九条  次に掲げる物は、没収することができる。
一  犯罪行為を組成した物
二  犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物
三  犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物
四  前号に掲げる物の対価として得た物
2  没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる。ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは、これを没収することができる。

号が用いられる条項では,「次の(各号)に掲げる……」と示されて列挙される場合が多いです.号番号は漢数字によって示されます.さらに細分化する場合は,「イ・ロ・ハ…」,「(1)・(2)・(3)…」,「(i)・(ii)・(iii)…」と言うように続きます.

主語+述語

以上が,日本の法律の構成になります.ここからは実際に法律の読み解き方について説明します.

条文は「主語+述語」という構造から成り立っています.例えば,刑事訴訟法317条は次のように規定します.

第三百十七条  事実の認定は、証拠による。

非常に短く簡潔な規定ですが,きちんと「主語+述語」の構造になっています.すなわち,主語が「認定は」,述語が「証拠による」です.また,民法177条は次のように規定します.

第百七十七条  不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

主語が「得喪及び変更」,述語が「対抗することができない」です.177条には,「不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ」というように条件が付され,少し複雑な形となっていますが,「主語+述語」の構造は維持されています.

要件×効果

具体的な事実が一定の「法律要件」を満たすことによって,「法律効果」を生じさせるという構造を採る条文が存在します.代表的なものが刑法199条です.

第百九十九条  人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。

人を殺すという法律要件が満たされると,死刑又は無期若しくは五年以上の懲役という法律効果が発生します.但し,刑法の場合,違法性と責任の要件も満たされる必要があります.1つの条文で要件と効果が完結している場合は少なく,他の条文や判例によって,追加・修正されることが多いです.

用語

次は条文に用いられる用語を見ていきます.条文に用いられる用語は日常生活で用いられるものも多いですが,意味が異なることがほとんどなので注意が必要です.

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接続詞

接続詞は,法律要件の概念を区切ったり,列挙したり,原則・例外関係を明確にする役割を持ちます.

又は・若しくは

又は」は,要素と要素を結び付ける接続詞です.「若しくは」は,「又は」より小さな概念を並列する場合に用います.要素が3つ以上の場合は「、」で並列させ最後に「又は(若しくは)」を挿入します.

  • A又はB(A=B)
  • A、B、又はC(A=B=C).
  • A若しくはB又はC({A=B}=C).

及び・並びに

及び」は,要素と要素を併合させる接続詞です.「並びに」はより上位の概念を併合させます.要素が3つ以上の場合は「、」で並列させ最後に「及び(並びに)」を挿入します.

  • A及びB(A=B)
  • A,B,及びC(A=B=C)
  • A並びにB及びC(A{B=C})

かつ

「かつ」は,併合的な意味をもつ接続詞です.「かつ」で接続された複数の要件はすべて満たされる必要があります.

  • AかつB→AとBの法律要件が満たされなければ,法律効果は発生しない.

ただし

「ただし」は,それまでの条文の内容の条件や例外を表します.

  • AただしB→Aが原則,Bが例外を表します.

法令用語

  • 者:自然人,法人(法人格を有しない「社団」,「財団」は者に含まれない)を示します.
  • 物:有体物,不動産の物件などを示します.
  • もの:無体物を示します.
  • 時:ある時点を表します.
  • とき:仮定条件を表します.
  • 場合:仮定条件,比較的大きな概念を示します.
  • 直ちに・速やかに・遅滞なく:「時を置かずに」という意味を表します(「直ちに」>「速やかに」>「遅滞なく」の順に強い意味を持ちます).
  • 以上・以下:基準値を含め数値を表します.
  • 超える・未満:基準値を含めず数値を表します.
  • 以前・以後・以内:基準時を含め,期間や時間の量について表します.
  • 前・後・内:基準時を含めず,期間や時間の量について表します
  • ~の日から:期間の起算日を表し,当日を含まず翌日から算定します(初日不算入).
  • ~の日まで:期間の末日を表し,当日を最終日として含めます.
  • 経過した・経過する:ある期間の満了する時点を過ぎる,ということを示します.
  • 施行する:法律の効力を発生させることをいいます.
  • 適用する:法律の規定を具体的な事実について発効させることをいいます.
  • 準用する:規定の本来の対象ではないものについて法律の規定を発行することをいいます.
  • 例による:ある事項について,別の制度そのものを包括的にあてはめ,法的な取扱いを同様にすることを意味します.
  • 同様とする:ある事項について,別の事項と同じ効果を与えることをいいます.
  • ~による・~で定める:他の規定や法的概念,事実関係に根拠があることを示します.
  • この限りでない:規定の一部または全部の適用を排除することを意味します.
  • 妨げない:ある規定が一定の条件の下でも有効であることを意味します.
  • みなす:本来,その法律が適用を予定している対象と異なるものに対して,同一の法律効果が及ぶものとすることを意味します.反対事実を証明して覆すことはできません
  • 推定する:通常予測される事実関係を,法律の適用において本来の事実関係として仮定して扱うことをいいます.反対事実を証明して覆すことができます
  • できる:一定の行為をする法的な権利・能力があること,あるいは,可能であることを示します.
  • できない:一定の行為をする法的な権利・能力が存在しないこと,あるいは,一定の場合に権利が制限されることを意味します.
  • しなければならない:ある行為を行う法的義務を負うことを示します.
  • してはならない:ある行為を法的に禁止することを意味します.
  • 科する:刑罰や過料を負わせることを示します.
  • 処する:具体的な刑罰,制裁を加えることを示します.
  • 課する:刑罰ではない一定の制裁を加え,制限・義務を負わせることを示します.
  • 同:直前に引用されている規定を,再び引用することを示す.
  • 前:直前の規定そのもののみを参照することを示します.複数の規定を参照する場合は,同〇条というように,〇に漢数字を入れて表します.
  • 次:直後に列記事項が存在することを示したり,次項の規定を参照することを示します.
  • その他:並列を表します.
  • 係る:事項同士の結びつきを示します(Aに係るB).
  • 関する:事項同士の関係を示します(Aに関するB).係る>関するという強さの関係になります.

まとめ

以上が法律を読む上で最低限必要な知識です.これらを意識して読むと複雑な法律の構造が明確になると思います.また,機会は少ないかもしれませんが,訴訟を起こす場合において,法律を読むだけでなく,訴状を書く場面でも以上の知識は約に立つと思います.是非活用してみてください.

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