北朝鮮に対する経済制裁

北朝鮮による6回目の核実験を受け、国連安全保障理事会は11日午後(日本時間12日午前)、北朝鮮への原油・石油精製品輸出に上限を設ける米国作成の対北朝鮮制裁決議を全会一致で採択した。安保理の制裁決議は9回目だが、北朝鮮への原油輸出が制裁対象となるのは初めて。核ミサイル開発を急速に進める北朝鮮への懸念の強まりを背景に、米国が調整を急ぎ、核実験から約1週間という異例の早さで採択に至った。

引用:時事ドットコム

https://www.jiji.com/jc/article?k=2017091200143&g=int

北朝鮮の核実験、ミサイルの発射実験を受け、国際連合(国連)の安全保障理事会(安保理)は北朝鮮に対して、何度も経済制裁に訴えることを決議を下している。2017年9月11日には、石油関連製品の輸出を3割削減することを内容とする決議がされた(決議2375 (2017))。

このような経済制裁には、どのような効果・問題があるのでしょうか。

スポンサーリンク


経済制裁とは

経済制裁とは、経済的手段によって制裁を加えることを意味するが、国際法でいう経済制裁は、対象国の国際法違反を要件としない。

国連憲章に基づく経済制裁

国連憲章によれば、安保理は国際の平和と安全の維持について主要な責任を負う(24条1項)。さらに、安保理は、その責任を果たすため、国際の平和に対する脅威、平和の破壊または侵略行為に該当する事態が生じているかを判断することが求められる(39条)。そのような事態が生じていると認められる場合には、国際の自由と安全を維持し回復するために必要と認める範囲で経済的措置(非軍事的措置)を(41条)、あるいは、それでは不十分だと考える場合には軍事的措置に訴えることができる(42条)。

つまり、国連憲章の下で、安保理は、国際の平和と安全を脅かすような事態が生じている場合には、経済的措置あるいは軍事的措置を用いて、平和と安全に対する脅威を取り除き、国際の自由と安全を維持し回復することが求められる。国連憲章に従えば、安保理は違法な行為の有無にかかわらず、経済制裁を行うことができる。

経済制裁の内容

では、経済制裁としていかなる措置が執られているのであろうか。

国際連盟規約は、具体的な措置として「一切の通商上又は金融上の関係を断絶し、自国民と違約国国民との一切の交通を禁止し、且つ聯盟国たると否とを問わず他の総ての国の国民と違約国国民との間の一切の金融上、通商上又は個人的交通を防遏すべきこと」を規程する(16条)。国連憲章は、安保理は兵力の使用を伴わないいかなる措置を使用すべきかを状況に照らして決定することができると定めるが、そのような措置には、経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶を含む(41条)。

すなわち、経済制裁としてはおおよそ以下の措置が想定されている。

  1. 物資の輸出入に関する制限措置
  2. 運輸通信手段に関する制限措置
  3. 金融・資産取引に関する制限措置
  4. 人的交流に関する制限措置

国際連盟規約の規定には、「一切の」という言葉が用いられており、経済制裁として物資・運輸通信・金融上の関係を断絶し、経済的に孤立化させることが予定されていた。しかし、このような包括的な経済制裁は、経済制裁を実施する国の経済にも負担を生じさせてしまうという問題点がある。物資の輸出入が制限されることによって、自国民や自国企業が経済的利益を得る機会を失うという不利益を被ることになってしまう。そうした不利益がありながら、国際の平和と安全を脅かすような行為をした国家を孤立させることで、平和と安全を回復することが重要であり、そうした国際社会の共通利益のためにすべての国が協力すべきである、というのが国際連盟規約の理想であった。しかしながら、現実にはそれを実現するのが困難であった。

イタリア領ソマリランドとエチオピアの国境紛争に乗じてイタリアがエチオピアに侵入したことに端を発する1935年のイタリア・エチオピア戦争においては、武器弾薬や軍事用機材のイタリアへの輸出禁止や通商上金融上の関係の制限、イタリア製製品の自国への輸入禁止とイタリアへの物資の供給制限などの制裁措置が連盟国により実施された。しかし、現実には、具体的な経済関係の断絶は行われず、自国経済または外交政策に差し障りのない範囲での輸出入制限措置が執られるに留まり、部分的な効果をあげず、結果として1936年5月にイタリアがエチオピアを併合するに至って、同年7月には制裁も解除されざるを得なかった。

他方で、国連憲章の規定には、「一切の」という文言は省かれた。どのような措置が執られるかは、問題とされる状況に照らして安保理が決定する。各加盟国は、それぞれの国内法を通じて決定された措置を実施しなければならない。

スマート・サンクション

経済制裁は、ある特定の「国」を対象としていて、そのために当該対象国全体に対して不利益を及ぼすような措置が選択されてきた。1964年に英国の植民地であった南ローデシアの白人政権がアフリカ系住民を抑圧しつつ独立を宣言した際には、安保理は南ローデシアとの間におけるほぼすべての物資に関する輸出入を禁止した他、政府および民間の如何を問わず南ローデシアとの間でのすべての金融援助・資金移転を禁止し、さらに南ローデシアのパスポート所持者の入国を禁止することを決定した。

このような政府と国民とを区別しない措置は、制裁対象国の国民の生活に深刻な影響を及ぼすこともあり、国民の国連や制裁実施国に対する反感を高め、制裁対象国政府への支持を高める可能性もある。その結果として、国際の平和と安全を脅かすような行為を促進する危険性もある。このような問題点に照らして、安保理は、個々の事案における目的にとって直接に関係するものに限定した措置を採るようになってきている。

北朝鮮に対する経済制裁について見れば、武器弾薬、軍事車両などの軍事物資および大量破壊兵器関連物資の輸出の禁止、核兵器の開発に直接関連する物資や技術・情報に対する規制、核兵器の開発に関わる個人・団体に対する資金提供の禁止や銀行口座の凍結などは、問題となっている行為に狙いを定めた経済制裁といえる。また、奢侈品の輸出禁止による政治的指導者に大きな影響を与える措置などがある。このような経済制裁をスマート・サンクションという。

今回採択された決議2375 (2017)の内容は以下の通りである。

北朝鮮への原油輸出 過去12か月分を年間上限
石油制製品の輸出 2017年10~12月は50万バレル、18年以降は年200万バレル
天然ガス液や超軽質原油の輸出 禁止
北朝鮮からの繊維製品輸入 禁止
北朝鮮からの出稼ぎ労働者への就労許可 禁止
北朝鮮の貨物船を公海上で検査 禁輸品の積載が疑われる場合、加盟国に要請
北朝鮮の個人・団体との合弁企業 禁止

今回の制裁決議案には当初、北朝鮮への石油輸出の全面禁止や最高指導者の金正恩朝鮮労働党委員長の資産凍結を含む厳しい内容が含まれていたが、この案からは後退することになった。問題となる核実験・ミサイル発射実験とは直接関わりのないと思われる「北朝鮮からの出稼ぎ労働者への就労許可」の禁止が含まれている点で、スマート・サンクションよりも一歩進んだ内容になっていることがわかる。

経済制裁の限界

国連の安保理決議による経済制裁の具体的な実施は国連加盟国によって行われる。そのため、国連が理想とする措置が執られない場合がある。更に言えば、物品の輸出等は個人・企業によって行われるため、裏取引、迂回取引が行われる可能性もある。制裁の内容によっては、制裁実施国に大きな不利益を与えることになる。北朝鮮に対する経済制裁について見れば、経済制裁により、北朝鮮が厳しい状態に陥ると、生活に困窮した北朝鮮国民が中国に移住することが考えられる。中国はこのような不利益を回避するため、経済制裁の誠実な履行を怠るかもしれない。以上のような点から国連安保理の決議による経済制裁には一定の限界があるといえる。

まとめ

北朝鮮が更に核実験・ミサイル発射実験を継続するならば、さらに強力な経済制裁が採られることになる。今回の決議の当初案で出された石油輸出の全面禁止が行われてもおかしくない。しかしながら、上記のような経済制裁に限界がある以上、そのような措置が北朝鮮の行為の中止を実現できるかは疑問であるが、大きな抑止力になる。また、制裁実施国は、経済制裁により被る不利益に対処することが求められる。

スポンサーリンク



シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする