国際機構の免除-国連職員を訴追できるのか

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国際機構の免除

国際機構が国の領域で活動する場合,当該国の国内法に服することになります.しかし,国際機構が国内法に全面的に服することになると当該国際機構の活動に支障が生じてしまいます.そこで,国際機構には一般に免除が認められ,国内法の適用が排除されます.

国際機構の免除の範囲とその根拠

国際機構の免除については以下の2つの学説が存在します.

  1. 国際機構は国家の主権を代替するものであり,国際機構の免除は,国家の享有する主権免除((外国自身及びその財産が法廷地国の裁判管轄権や執行管轄権から免除されること.))に由来し,本質的に国際機構にとっては外来的なものである.
  2. 国際機構は,国際社会の共通の利益を達成するため個別国家の権限を超越した「国際公役務」機関であり,国際機構の免除は,国際機構の固有の性質に由来する本来的なものである.

歴史的には,前者の見解が条約に反映してきましたが,現在の国連憲章は後者の立場に立ちます((国連憲章105条1項 この機構は、その目的の達成に必要な特権及び免除を各加盟国の領域において亨有する.)).この結果,国際機構の免除の固有の根拠として登場したのが,機能的必要説です.機能的必要説とは,国際機構は,各構成国の領域において,機構の目的の達成というその機能を遂行するために必要な限りで免除を享有するという考え方です.機能的必要説は,免除の根拠であると同時にその範囲も確定します.すなわち,その免除は,機構の機能遂行に必要な限度です((IMF協定9条8項(i)は,”acts performed by them in their official capacity“に限って職員の免除を認めています.)).

判例

2005年1月25日破毀院社会部判決

事実

フランス人であるデグボ氏は1992年にアフリカ開発銀行(African Development Bank)に採用されたが,1995年11月20日付のアフリカ開発銀行総裁の署名のある文書によって解雇された.この解雇が不当であるとして,デグボ氏はまず,コートジボワールの裁判所に提訴したが,裁判所は裁判管轄がないとしたため,同氏はフランスの労働裁判所に,アフリカ開発銀行の退職補償金などの支払いを求める訴えを提起した.

判旨

当事者の一方がその請求について判断し,国際的な公序にかかわる権利を行使することを担当する裁判にアクセスできないということは,フランスとの連結が存在するとき,フランスの国際裁判管轄に基づく裁判拒否となるものであるから,本事件の事実の生じた時点で,アフリカ開発銀行は,組織内に解雇した職員との訴訟について判断する権限を有する裁判機関を設けていなかったので,アフリカ開発銀行は主権免除を主張することはできない

国連大学事件(東京地裁昭和52年9月21日決定)

事実

国連の一機関の国連大学に雇用され,その後契約の更新を拒絶された者が,地位保全の仮処分を求め,裁判所に訴えた.

判旨

主文
債権者の申請を却下する。
申請費用は債権者の負担とする。
理由
一 本件申請は、債権者が国際連合大学を債務者として、「債務者は債権者を債務者の職員として処遇しなければならない」との仮処分を求めるものであり、その理由の要旨は、「債権者は債務者に昭和五一年一〇月四日から秘書として採用され勤務してきた者であり、その雇用期間(フィックスト・ターム)は三ヶ月となっていたが、特段の事情のない限り期間満了と共に更新される(更新後の期間は一年となる)ものとして採用されたのである。しかるに債務者は同年一二月二一日債権者に対し右雇用契約を昭和五二年一月四日以降更新しない旨の意思表示をした。しかし右更新拒絶(実質的には解雇である)は何ら正当な事由に基づかないものであるから、解雇権の濫用ないし更新拒絶権の濫用として無効であり、債権者は昭和五二年一月四日以降もいぜんとして債務者の職員としての権利を有する。債権者は債務者に対しその旨の確認訴訟を提起する予定であるが、その判決確定に至るまで債務者の職員として取扱われないでは著しい損害を蒙るので、本件地位保全の仮処分を求める。」というのである。
二 そこでまず、国際連合大学(以下国連大学という)が国際連合(以下国連という)とは独立した法人格(当事者能力)を有するか否かが問題である。
[…]国連大学は国連の補助機関である。[…]わが国としては、国連大学がわが国において権利義務の主体として活動することを当然の前提として右協定を締結したものと考えられるのである。
これらの事情によれば、国連大学はわが国法上独立した法人格として、訴訟上の権利能力を有するものと取扱うのが相当というべく、債権者が本件申請の相手方を国連大学とした点は、適法として是認できる。
三 次に、このように法人格を肯定される国連大学がわが国において訴訟手続からの免除を享有するか否かについて検討する。
国連が国連憲章一〇五条、国連の特権及び免除に関する条約二条二項により、また専門機関が専門機関の特権及び免除に関する条約三条四項により、それぞれ訴訟手続の免除を享有する旨定められているのに比し、国連大学について免除特権を直接定めた条約はない(大学本部協定は大学本部職員等について免除特権を定めているが、大学自体のそれについては直接定めていない。)。しかしながら、国連に右のとおり免除特権を承認した趣旨は、国連という国際機構をしてその目的達成のための国際社会における活動を全からしめるところにあり、そして国連大学は国連の目的を達成するためにその機関として設立されたものであるから、右国連特権条約の趣旨は、国連自体のみならずかかる国連の機関についても(その機関が独立の法人格を有しないときは機関自体の特権を問題にする余地はないが、独立の法人格を有すると認められるときにも)免除特権を享有せしめる意味に解するのが相当であり、国連大学憲章一一条一項は、国連大学が国連憲章一〇五条並びに国連の特権、免除等に関するその他の国際取極等による特権、免除を享有するものと定めているところ、それ自体条約としてわが国を拘束するものではないが、わが国が、大学本部協定を、「国連大学が国連の機関として国連憲章及び国連の特権及び免除に関する条約によって与えられる利益並びに国連大学憲章によって与えられる利益を享受すること」を前提として締結している(協定前文)ことは、右の解釈を裏付けるものということができる。
よって国連大学は、わが国法上、免除を明示的に放棄した特定の場合を除き訴訟手続からの免除を享有するものと解するほかはない。[…]
四 そこで当裁判所は本件に関し、最高裁判所、外務省を通じ債務者に対し、右免除の放棄について照会したところ、債務者から、訴訟手続から免除されることを確認する旨の意思が伝達された。
そうすると、本件についてわが国の裁判所はこれを審理、裁判することができないから、本件申請は却下を免れない。[…]
よって、申請費用につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 濱崎恭生)

スレブレニツァの母事件(欧州人権裁判所2013年6月11日決定)

事実

スレブレニツァ虐殺(Srebranica Massacres)((ボスニア東部の町スレブレニツァで,1995年7月にムスリムの男子住民約8000人が殺害・行方不明となった事件.))における国連の責任を追求するために,スレブレニツァ母連合はオランダの裁判所に提訴したが,オランダ最高裁は,「国際司法裁判所が,国連憲章103条を国連加盟国の憲章条の義務が他の国際条約条の義務よりも優先すると解釈しているニカラグア対米国の判決に基づき、オランダの最高裁判所は、国連が絶対的な免除を受けているという結論に達した」として市民権および政治的権利に関する国際規約14条および欧州条約6条に含まれる裁判所へのアクセス権は、告発された罪の重大性を考慮しても、国連の免責を排除するものではないとした.原告は,最高裁判決後,ヨーロッパ人権裁判所に訴えた.((https://en.wikipedia.org/wiki/Mothers_of_Srebrenica))

判旨

国連は現在まで,本問題に対し,適切な「紛争解決の方法」のための規定を設けたことがない.国連の特権免除条約の8条29項が,本件において紛争解決の機関を設けることを必要とすると解釈することができるか否かにかかわらず,オランダには責任はない.原告の主張の性質はオランダに,自国の裁判所において国連に対する補償を設けることを強制するものではない.裁判所は,現時点では,原告のオランダに対する請求が必ず失敗することを立証することはできない.本件において,国連に対する免除は,法定の目的に供するものであり,不均衡なものではない.

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