領海における無害通航制度

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国家の領域

国家の領域は、領土、領水(領海+内水)、領空の3つから構成される。

  • 領土:国の国土をなす陸地部分
  • 領水:領土の外側に設定される最大12海里(1海里=1.852km)の水域(領海)+領海と基線の内側の水域(内水)
  • 領空:領土・領水の上空の空域

国家は、その領域内のあらゆる事項について排他的な権限を行使することが認められている。

領海

国家は、領土から12海里まで領海を設定することができるが、領海を設定する上で基準となる線を基線と呼ぶ。通常の基線は海岸の低潮線である(国連海洋法条約5条)。海岸線が著しく曲折している場合、海岸に沿って一連の島が存在する場合などの海岸な地形が複雑な場所においては、海岸の全般的な方向から著しく離れないように適当な点を結んで直線的な基線(直線基線)を引くことが認められている(7条)。この方法は、国際司法裁判所が1951年のノルウェー漁業事件判決((Fisheries case, Judgment of December 18th 1951: I.C.J. Reports 1951, p. 116))において認められて以来、広く採用されており、日本は合計162本の直線基線を引いている。

出典:海上保安庁HP(http://www1.kaiho.mlit.go.jp/JODC/ryokai/kakudai/itiran.html

無害通航制度

領海は沿岸国の領域の一部であるため、沿岸国は領海に対し主権を行使することができる。しかし、海上交通の便宜を図るために、すべての国の船舶には、他国の領海において無害通航権(right of innocent passage)を享受する(17条)。外国船舶は、無害である限り、他国領海において沿岸国の許可なく通航することができる。

第17条 無害通航権
すべての国の船舶は、沿岸国であるか内陸国であるかを問わず、この条約に従うことを条件として、領海において無害通航権を有する。

船舶が他国の領海において無害通航権を享受するためには、第一に「通航」を行うこと、第二にそれが「無害」であることを必要とする。

通航の意味は、18条が規定している。

第18条 通航の意味
1 通航とは、次のことのために領海を航行することをいう。
a.内水に入ることなく又は内水の外にある停泊地若しくは港湾施設に立ち寄ることなく領海を通過すること。
b.内水に向かって若しくは内水から航行すること又は(a)の停泊地若しくは港湾施設に立ち寄ること。
2 通航は、継続的かつ迅速に行わなければならない。ただし、停船及び投びょうは、航行に通常付随するものである場合、不可抗力若しくは遭難により必要とされる場合又は危険若しくは遭難に陥った人、船舶若しくは航空機に援助を与えるために必要とされる場合に限り、通航に含まれる。

通航とは、目的地に向けて行われる継続的かつ迅速な通過を意味する。停船・投錨を行うことは、悪天候の場合などを除き認められない。また、領海で徘徊を行うことは、通航には当たらない。

無害通航とは、沿岸国の平和、秩序または安全を害しない通航をいう。19条は、無害とされる通航について12項目を列挙している。

第19条 無害通航の意味
1 通航は、沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り、無害とされる。無害通航は、この条約及び国際法の他の規則に従って行わなければならない。
2 外国船舶の通航は、当該外国船舶が領海において次の活動のいずれかに従事する場合には、沿岸国の平和、秩序又は安全を害するものとされる。
a.武力による威嚇又は武力の行使であって、沿岸国の主権、領土保全若しくは政治的独立に対するもの又はその他の国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する方法によるもの
b.兵器(種類のいかんを問わない。)を用いる訓練又は演習
c.沿岸国の防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為
d.沿岸国の防衛又は安全に影響を与えることを目的とする宣伝行為
e.航空機の発着又は積込み
f.軍事機器の発着又は積込み
g.沿岸国の通関上、財政上、出入国管理上又は衛生上の法令に違反する物品、通常又は人の積込み又は積卸し
h.この条約に違反する故意のかつ重大な汚染行為
i.漁獲活動
j.調査活動又は測量活動の実施
k.沿岸国の通信系又は他の施設への妨害を目的とする行為
l.通航に直接の関係を有しないその他の活動

19条2項に挙げられているものが、例示的なものか限定的なものか見解が分かれる。

19条2項の列挙されたものは例示に過ぎないと解するのであれば、他にも無害でないとされる場合が存在する。無害性の有無の判断基準は主に以下の2通りが挙げられる。第一に、船舶が行う具体的な行為や航行の態様が沿岸国にとって有害かどうかによって判断する(行為・態様別規制)。第二に、船舶の種類、装備、積荷、仕向地などによって判断する(船種別規制)。

日本は、船種別規制に反対の立場を取っているものの、核兵器を搭載した軍艦については無害通航を認めないとしている((第58回衆議院外務委員会議録12号三木国務大臣8頁))。

沿岸国の権利

沿岸国は無害通航に関して以下のような権利を有する。

  • 沿岸国は、国連海洋法条約及び国際法の他の規則に従い、領海における無害通航に係る法令を制定することができる(21条1項)。
  • 沿岸国は、航行の安全のために必要な場合には、航路帯を指定し、また、分離通航方式を設定することができる(22条1項、2項)
  • 沿岸国は、無害でない通航を防止するため、自国の領海内において必要な措置をとることができる(25条1項)。
  • 自国の安全のため不可欠な場合には、領海内の特定区域において、外国船舶の無害通航を一時的に停止することができる(25条3項)。

特に問題となるのが、25条1項の「必要な措置(the necessary steps)」が何を意味するかということである。領海からの退去要請、停船要請を行うための視覚・聴覚に訴える警告や船舶と併走して対処を促すような非強制的な措置を執ることはできると理解すべきである。では、威嚇射撃や船体への射撃は認められるかという点が問題となる。

この点につき、国際海洋法裁判所において判示された1999年サイガ号(第2号)事件((排他的経済水域で操業する漁船に対して燃料の洋上補給を行ったセント・ヴィンセント・アンド・グレナディーンの給油船が、排他的経済水域を含む関税水域での無許可の給油を禁止した沿岸国ギニアの国内法令に違反したことを理由に、ギニアが逃走する船舶を砲撃・拿捕した事件。))が参考となる。そこでは、船舶を停船させるための手順を以下のように示した((para. 156))。

  1. 停船させるための国際的に承認された視覚・聴覚に訴える信号を発信する。
  2. 1.が成功しないときに警告射撃を含む様々な損害を与えない措置をとる。
  3. 2.が成功しないときに最後の手段として武力を行使する。但し、適切な警告を行うことおよび生命を危険にさらさないことを保証するためのあらゆる努力をすることを条件とする。

なお、サイガ号事件は無害でない通航に対する措置について判示した事件ではないことに注意が必要である。しかし、沿岸国が外国船舶に対し執りうる措置を検討する上では参考になる。このように手順を踏んだ上で必要最小限の武力を行使するというのは、25条1項の措置が、「measures」ではなく、「steps」と規定されていることと整合的である。無害でない通航に対する措置についても以上のような手順を遵守する必要があると理解すべきである。

公船・軍艦の沿岸国管轄権からの免除

領海において、公船および軍艦は沿岸国の管轄権から免除される。これは、沿岸国は、他国の公船および軍艦に対して国内法を違反したことを理由とする執行管轄権や裁判管轄権の行使をすることができないことを意味する。しかし、法令違反に対する管轄権行使と無害でない通航の防止はその性質が異なる((西村弓「海洋安全保障と国際法」『守る海、繋ぐ海、恵む海-海洋安全保障の諸課題と日本の対応-』(日本国際問題研究所、2012年)94頁。))ため、無害でない通航を行っている公船・軍艦に対して沿岸国が如何なる措置を執ることができないということはできないだろう。

なお、軍艦に無害通航権が認められるかどうかという点について諸国の見解は一致していない。すなわち、態様別規制を行うか船種別規制を規制を行うかの立場に分かれている。態様別規制の立場を取る国は、軍艦の領海の通航が無害かどうかを実質的に判断するのに対し、船種別規制の立場を取る国は、軍艦が領海に入る前に事前の許可を要したり、通告を求めることが一般的である。

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