【南シナ海仲裁】国連海洋法条約121条の解釈

2016年7月に判決が出された中国とフィリピンの間の「南シナ海仲裁」において最大の議論となったのが,南シナ海の地形が,国連海洋法条約(United Nations Convention on the Law of the Sea)上の「岩」に該当するか,島に該当するかです.この議論が重要な理由は,島であれば,国家は,その地形から自国の領海・大陸棚・排他的経済水域の権原を及ぼすことができますが,「岩」であれば,その地形が,大陸棚・排他的経済水域の権原を生じさせることはありません.

国連海洋法条約の島の制度

国連海洋法条約121条は次のように規定します.

Article121

Regime of islands

1. An island is a naturally formed area of land, surrounded by water, which is above water at high tide.

2. Except as provided for in paragraph 3, the territorial sea, the contiguous zone, the exclusive economic zone and the continental shelf of an island are determined in accordance with the provisions of this Convention applicable to other land territory.

3. Rocks which cannot sustain human habitation or economic life of their own shall have no exclusive economic zone or continental shelf.

1項は,「島とは、自然に形成された陸地であって、水に囲まれ、満潮時においても水面上にあるものをいう」と規定し,島の定義を定めます.満潮時においても水面上にある地形を高潮高地(high- tide feature)と一般的に呼びます.

2項は,「3に定める場合を除くほか、島の領海、接続水域、排他的経済水域及び大陸棚は、他の領土に適用されるこの条約の規定に従って決定される」と規定し,島が領海接続水域排他的経済水域及び大陸棚を有することを規定します.大陸棚,排他的経済水域の沿岸国は当該海域において天然資源の探査等の活動を行うことができます(56条,77条).すなわち,島を領有する国家にとっては,それが大陸棚や排他的経済水域を生じさせるかどうか重大な関心事となります.

2項が規定するように,3項に該当する地形は大陸棚,排他的経済水域を有しません.そのような地形を国連海洋法条約は「岩」としてその定義を定めています.

Rocks which cannot sustain human habitation or economic life of their own shall have no exclusive economic zone or continental shelf.

3項は,「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することのできないは、排他的経済水域又は大陸棚を有しない」と規定します.注意すべきは,地理学上の岩であれば自動的に121条3項上の「岩」に該当するわけではなく,「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することができない岩」が権原を生じさせない「岩」に該当します.これは英語の正文が,

Rocks which cannot sustain human habitation or economic life of their own shall have no exclusive economic zone or continental shelf.

と規定するように,”which”以下が岩の意味を限定していることからわかります.つまり,地理学上の岩であっても,「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することが」できる岩は,大陸棚・排他的経済水域の権原を生じさせる「岩」に該当します.

南シナ海仲裁

それでは,「人間の居住又は独自の経済的生活を維持することが」できるかどうかの判断ですが,仲裁は以下のように判断しました.

  1. 「岩」とは必ずしも地理学的,地形学的な岩を構成しない.
  2. 地形の法的地位は,自然の本来の能力によって判断される.
  3. 「人間の居住」とは,一時的ではなく,人の集団の永続的・常習的な居住を意味する.
  4. 「独自の経済的生活」とは,その地形と結びついた経済活動を必要とする.
  5. 「又は」と「かつ」は,形式理論に基づけば,同義である.
  6. 「~することができない」とは,人間の居住・経済的生活を維持できる能力があるかどうかで判断する.
  7. 「岩」に当たるかどうかは,case by caseで判断する.

まとめると,「岩」かどうかは人間の居住及び経済的生活を維持できる能力を本来的に備えているかどうかによって判断されます.地形それ自体が,それらを維持する能力を有する必要があるため,人工島や人工的に増設された部分の能力は考慮されません.そして,人間の居住と経済的生活は両方が維持されていなければなりません.

仲裁による121条3項の解釈は非常に精緻で説得的なものでありますが,一方で121条3項の短いセンテンスからこれほどに多くの要件が導き出せるものかどうかは疑問があります.仲裁は,以上の要件を各地形に適用し,スカボロー礁,ジョンソン礁,クアテロン礁,フェアリークロス礁,ガベン礁,マッケナン礁,スプラトリー諸島を「岩」であるとしました.本仲裁判決は,フィリピンの主張を大幅に認め,中国が排他的経済水域・大陸棚を主張することができる海域はほとんど認められないことになります.

沖ノ鳥島の法的地位

わが国は長年,沖ノ鳥島は,大陸棚,排他的経済水域を有する島であると主張してきました.日本は,121条の1項の要件を満たせば,3項には縛られないという立場を採ってきました.これを分離説といいます.しかし,国際司法裁判所で判示された「領土及び海洋紛争事件(ニカラグア対コロンビア)(Territorial and Maritime Dispute (Nicaragua v. Colombia))」において,領海を有するが大陸棚及び排他的経済水域を有しない地形の存在が確認されました.すなわち,1項の要件を満たした地形であっても3項によって権限が制限される場合があります.

南シナ海仲裁が判示された後,外務省は次のような見解を示しました.

岩について何か具体的な定義というものはないと考えております。規定,国連海洋法条約第121条3など様々な規定がありますが,こうした規定にも,岩の定義というものはないと考えており,岩であるかどうかの解釈が確定しているとは言えないとは考えています。
そしていずれにせよ今回の仲裁判断,これは沖ノ鳥島等の法的地位に関する判断ではありません。これは国連海洋法条約に基づいて,今次,仲裁判断に拘束されるのは,当事国であるフィリピン及び中国のみである,このように考えております。そして我が国としては,沖ノ鳥島は国連海洋法条約上の条件を満たす島であると考えております。

我が国にとって沖ノ鳥島が有する大陸棚,排他的経済水域は非常に重要なものであります.そのため,今後も沖ノ鳥島が大陸棚,排他的経済水域を有する島であると主張せざるを得ないでしょう.しかし,本判決の基準を適用すると沖ノ鳥島のみならず,竹島南鳥島西ノ島も大陸棚,排他的経済水域を有しない「岩」であると考えられます.

国家の排他的経済水域や大陸棚が認められない海域は,すべての国の財産である深海底,あるいは,公海として扱われるため,すべての国は日本の地形の法的地位について訴えることができます.今回の仲裁判決が,直接日本に影響を及ぼすことはありませんが,もし日本が訴えられた場合,本判決が間違いなく参照されるという意味で間接的な影響を持つといえるでしょう.

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