投資仲裁における投資財産の範囲-Saliniテスト

投資財産該当性の重要性

ある企業が投資協定による利益を受けるためには、企業による投資が投資財産(investment)と認められる必要があります。多くの投資協定には、投資財産の定義が定められていますが、紛争において投資財産であるかどうかの判断が困難な場合があります。投資財産の該当性を満たすことは、投資協定の適用を受けるための必須の前提であり、非常に重要な問題です。投資財産該当性は、その財産が投資協定上の保護を受けるためにも重要ですが、他方で、仲裁において管轄権が認められるかどうかという点においても重要な問題となります。当該財産が、投資協定あるいはICSID条約などにおける「投資財産」であると認められなければ、投資仲裁の管轄権は認められないのです。

投資財産の定義

 投資財産の範囲は個別の投資協定の定義によって定められます。例えば、2009年4月に発効した日本とウズベキスタンの二国間投資協定1条は次のように規定します。

この協定の適用上、

(1)「投資財産」とは、締約国の投資家により、直接又は間接に所有され、又は支配されているすべての種類の資産をいい、次のものを含む。

 (a)企業及び企業の支店

 (b)株式、出資その他の形態の企業の持分(その持分から派生する権利を含む。)

 (c)債券、社債、貸付金その他の債務証書(その債務証書から派生する権利を含む。)

 (d)契約(完成後引渡し、建設、経営、生産又は利益配分に関する契約であって、投資に関連するものを含む。)に基づく権利

 (e)金銭債権及び金銭的価値を有する契約に基づく給付の請求権であって、投資に関連するもの

 (f)知的財産権(著作権及び関連する権利、特許権並びに実用新案、商標、意匠、集積回路の回路配置、植物の新品種、営業用の名称、原産地表示又は地理的表示及び開示されていない情報に関する権利を含む。)

 (g)法令又は契約により与えられる権利(例えば、特許、免許、承認、許可。天然資源の探査及び採掘のための権利を含む。)

 (h)他のすべての資産(有体であるか無体であるかを問わず、また、動産であるか不動産であるかを問わず、また、動産であるか不動産であるかを問わない。)及び賃借権、抵当権、先取特権、質権その他関連する財産権

投資財産には、収入を含む。投資される資産の形態の変更は、その投資財産としての性質に影響を及ぼすものではない。 

 但し、ICSID仲裁においては、投資協定上の個別要件に加え、ICSID条約が定める共通要件をも満たす必要があります。なぜなら、ICSID条約においてICSID仲裁の管轄が認められるのは、「投資」から生じる紛争に限られるからです(25条1項)。では、この「投資」から生じる紛争とはどのようなものでしょうか?この疑問に対し、客観的要件を定式化したのがSalini事件です。

Saliniテスト

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Saliniテストとは

 Salini事件において仲裁廷は、投資財産制の指標として4つの要素を掲げた(para. 52)。

  1. 実質的な出資
  2. 当該事業が一定の持続期間を有すること
  3. 取引リスクへの参加
  4. 受け入れ国の経済発展への寄与

この基準はSaliniテストと呼ばれます。このテストの趣旨は、「投資」の性格を持つとはいえない資産を保護対象から除外する点にあります。他方で、Saliniテストは仲裁管轄権の成立要件ではなく、単に投資財産の特徴を例示したに過ぎないとの見解も存在します。

例えば、M.C.I Power事件では、ICSID条約には投資財産の客観的な定義は存在せず、BITによる投資財産の定義が仲裁管轄の有無の判断基準となると述べ、多くの仲裁判断が言及する上記の諸要素は、投資財産が存在する条件の単なる例示に過ぎないとします(para. 159-60, 165)。

Saliniテストの安定性

 Saliniテストは、様々な事件において引用され、その是非について議論がなされています。

Malaysian Historical Salvor事件・取消特別委員会(2009) Saliniテストを採用し、管轄権を否定したMalaysian Historical Salvors事件(2007)の仲裁判断を取り消した。
Pantechniki事件(2009) Saliniテストは、投資財産の特徴を描写する試みとしては受け入れられるが、それが管轄権成立の要件になることは考えられない。
Biwater事件(2008) Saliniテストの一部又は全部を満たしていないことを立証できたとしても、管轄権を否定する根拠としては十分ではない。
Toto Contruzioni Generali事件(2009) 本件事業がICSID条約における管轄権要件を満たすか否かは、Saliniテストに厳密に依拠して判断するのではなく、むしろ本件事業により適合すると思われる方法で投資財産としての必要な要素を描き出すことにより判断する。
RSM Production Corporation事件(2009) Saliniテストは一定の合理性を持つが、それはICSID条約における管轄権の基準を構成するものではない。

以上のように、判例ではSaliniテストに対して極めて大きな疑問が提起されており、Saliniテストの適用を否定しています。

Saliniテストの適用についてMalaysian Historical Salvor事件においてHwang仲裁人は次のように述べています。

従来の仲裁判断や学説は、上記の諸要素を単に投資財産の典型的な特徴として捉える立場(=典型的特徴アプローチ(Typical Characteristics Approach))と、仲裁管轄の不可欠の根拠として捉える立場(=管轄アプローチ(Jurisdiction Approach))とに分裂しているように見えるが、これは、仲裁廷が投資財産性の判断に説得力を持たせるために単に説明の仕方を変えているに過ぎない。つまり、(1)上記の諸要素が明らかに存在する(あるいは明らかに存在しない)場合には、それを主要な根拠として仲裁管轄を肯定(あるいは否定)することが説得的であるため、管轄アプローチの構成を採る。他方で、(2)上記諸要素の存否が一見明白でない場合には、典型的特徴アプローチを採り、これらの諸要素が管轄権判断の絶対的な指標でないと述べることで、結論に説得力を持たせるのである。

まとめ

 問題となるモノが投資財産であるか否かは、第一に個別の投資協定の定義に照らして判断される問題となります。ICSID仲裁を利用する際、Salini基準は、投資財産の範囲を画定する一種の指標となるかもしれないがその位置づけは安定したものではないため、個別具体的に投資財産該当性を判断する必要があるといえます。

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