NHK受信料制度と放送法64条1項に関する判例-東京高判平成29年5月31日

 放送法641項は、テレビ等を設置した者に対して受信契約を締結する義務を定めているが、このテレビ等を設置した者とはだれを指すのか、また、同項の規定の曖昧な表現は、課税要件明確主義に違反しないだろうか。これらの点に関して、東京高判平成29年5月31日について見る。

裁判所HPhttp://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=86848

判決文:http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/848/086848_hanrei.pdf

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事実

 X(原告・被控訴人)は、勤務先会社の指定により、平成271019日からレオパレスが賃貸する家具家電付賃貸物件(本件物件)に入居した。本件物件には、NHK(被告・控訴人)の地上波放送の受信設備(テレビ)が設置されており、入居直後、Xは受信契約の委託業務を行う会社の従業員から、Xには受信契約を締結する法律上の義務がある旨の説明を受けた。Xは、受信契約に署名し、同年10月・11月分の受信料2,620円を支払った。

 Xは、約1か月で同物件から退去したため、NHKから11月分の受信料が返金された。しかし、Xは、放送法641項において受信契約締結義務が課せられる「受信設備を設置した者」とは、本件物件のオーナーであり、Xは受信契約を締結する法律上の義務を負わず、本件受信契約は公序に反して無効であると主張した。また、Xは,放送法641項の「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」には受信機を占有・管理している者も該当すると解釈したり,同項の意義について複数の解釈をしたりするのは,文言からかけ離れた恣意的な解釈であり,課税要件明確主義に反すると主張する。そしてXは、不当利得返還請求権に基づき、10月分の受信料とその利息分の支払を請求した。これに対しNHKは、受信料は実際に受信することができる者によって負担されるべき受益者負担金に類するものであり、受信設備を現実に占有・管理する者が受信契約義務者になると主張した。

 第1審東京地判平成281027日は、NHK受信料は「受益者負担金」ではなく、高い公共性を有する事業を維持し運営するために法が特に定めた「特殊な負担金」であり、物理的・客観的に受信ができる状態を作出している者から聴取するものであるとした。そして、放送法641項は、NHKと国民の間で自由に合意形成ができることを許容することなく、国民に対して受信契約を締結する義務を課す異例の仕組みを取る強行規定であるとした上で、XNHKの契約は、同項の要件を満たさず無効であると判示した。

判旨

原判決中控訴人敗訴部分取消し。

受信設備設置者の定義について

 「放送法64条1項は,『協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。』と規定して,『協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者』が控訴人と放送受信契約を締結する義務を負うことを明らかにしている。」

 「ところで,放送法は,同項の『協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者』について定義規定を置いておらず,民法その他の法律にも定義規定はない。そうすると,『協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者』は放送法固有の概念であるから,その意義を解釈するに当たっては,同項の文言だけでなく,その立法趣旨も併せて考慮することが可能であり,かつ適切である。」

 「同項が放送受信契約の締結義務を定めたのは,控訴人があまねく全国に豊かでかつ良い放送番組を提供するために設立された公共的機関であり言論報道機関であり,その使命を果たすためには控訴人の財産的基礎を確保することが必要不可欠であるところ,控訴人の財産的基礎を税収に委ねた場合には番組編集に国の影響が及ぶことが避けられず,他方,広告収入に委ねた場合には広告主の影響が及ぶことが避けられないことから,特殊な負担金である受信料制度を採用して国民に直接費用負担を求める趣旨に出たものと解される。」

 「このような同項の文言及び趣旨に照らせば,『協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者』とは,受信設備を物理的に設置した者だけでなく,その者から権利の譲渡を受けたり承諾を得たりして,受信設備を占有使用して放送を受信することができる状態にある者も含まれると解される。」

 「すなわち,上述した同項の趣旨に照らせば,『協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者』とは,本来,控訴人が直接費用負担を求めるだけの実質的な関係を有する者,すなわち受信設備により放送を受信することができる状態にある者であることを要し,かつ,それで足りると解される。」

課税要件明確主義について

 「受信料は課税ではないから課税要件明確主義に反しないし,控訴人が放送法64条3項により総務大臣の認可を受けた放送受信規約に基づいて長年にわたって行っている同項の解釈運用と基本的に軌を一にするものであるから,国民の予測可能性を害するものでもない。」

解説

 本判決は「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」の定義について、及び、受信料について課税要件明確主義が妥当するかについて判示した。

受信設備設置者の定義について

 「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者」に関して、一読すれば、受信設備を設置した者、すなわち、テレビ等を設置した者に限定されるように思える。しかし、裁判所は、NHKの公共性財産的基盤を確保する必要性を強調し、受信料を「特殊な負担金」であるとした上で、「受信設備を物理的に設置した者だけでなく,その者から権利の譲渡を受けたり承諾を得たりして,受信設備を占有使用して放送を受信することができる状態にある者も含まれる」とした。第1審が、受信料は「特殊な負担金」であるとした上で物理的・客観的に受信ができる状態を作出している者としたのに対して、本判決は、受信料は「特殊な負担金」であるとした上で、受信設備設置者の範囲を拡張したことが特徴的であるNHKの財政的基盤を確保するためには、受信設備設置者を広く解し、受信料を広く徴収する必要があるという意味であろう。

課税要件明確主義について

 課税要件明確主義とは、課税要件を法律で規定する場合でも、その内容が一義的でなければならないとする原則である。NHKの受信料が課税に該当するかという点について、受信料は、国家ではなく、NHKという公益法人によって徴集されるものであるという点から課税には該当しないことがわかる。また、課税は一般的に公共サービスを提供するという目的で行われるのに対し、受信料はは、NHKの事業を運営する目的で徴収されることからも課税ではないといえる。よって、東京高裁の判断は一応合理的であるということができる。

 他方で、NHK受信料のような広範囲の者に対し、強制的に負担を課す制度について課税要件明確主義の準用ができないかという問題がある。NHK受信料制度の下では、テレビ等を設置した者は受信契約を締結し、受信料を支払わなければならない。その期間は、テレビを設置している限り継続する性質を持っている。日本全体を見れば、テレビを所有していない世帯はそれほど多くないだろう。このように、国民に対して大きな負担を課すような受信料制度については、法律の要件明確性が求められて然るべきである

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