天皇の生前退位-法的問題と実際上の問題

天皇陛下が「生前退位」の意向を示唆されたことについて、国民の多くが理解を示している傾向が報道各社の世論調査で浮かび上がった。生前退位に賛意を示し、今の天皇に限った対応ではなく、恒久的な制度を求める回答が目立つ。

引用:日本経済新聞ウェブサイト(http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS21H04_R20C16A8PE8000/

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生前退位とは

生前退位とは、天皇が生前に天皇としての位を後継に譲ることをいいます。世界的には、国王等が生前に退位する例は少なからず存在します。例えば、オランダ王室では、ベアトリック前女王が2013年に退位を表明しており、また、ベルギーでも、同年アルベール2世前国王が退位しています。では、日本における天皇の生前退位には、どのような問題があるのでしょうか。

法的問題

最も大きな問題が法律の問題です。日本の法律は、天皇の生前退位を認めていないのです。

皇室典範4条は次のように規定します。

天皇が崩じたときは、皇嗣が、直ちに即位する。

この規定は、皇位継承の要件として天皇が崩御すること、つまり天皇が亡くなることを明示しています。これは旧皇室典範の規定を継承したものであり、明治憲法下でも天皇が生前退位することは予定されていませんでした。

歴代の天皇

しかし、歴史的に見れば明治以前は生前退位、つまり、生前に譲位することが一般的なものでした。その証拠として、明治以前は以下64名の天皇が生前に譲位しています。

  • 皇極天皇
  • 持統天皇
  • 元明天皇
  • 元正天皇
  • 聖武天皇
  • 孝謙天皇
  • 淳仁天皇
  • 光仁天皇
  • 平城天皇
  • 嵯峨天皇
  • 淳和天皇
  • 仁明天皇
  • 清和天皇
  • 陽成天皇
  • 宇多天皇
  • 醍醐天皇
  • 朱雀天皇
  • 冷泉天皇
  • 円融天皇
  • 花山天皇
  • 一条天皇
  • 三条天皇
  • 後朱雀天皇
  • 後三条天皇
  • 白河天皇
  • 鳥羽天皇
  • 崇徳天皇
  • 後白河天皇
  • 二条天皇
  • 六条天皇
  • 高倉天皇
  • 後鳥羽天皇
  • 土御門天皇
  • 順徳天皇
  • 仲恭天皇
  • 後堀河天皇
  • 後嵯峨天皇
  • 後深草天皇
  • 亀山天皇
  • 後宇多天皇
  • 伏見天皇
  • 後伏見天皇
  • 後花園天皇
  • 後醍醐天皇
  • 光厳天皇
  • 光明天皇
  • 崇光天皇
  • 後光厳天皇
  • 後円融天皇
  • 長慶天皇
  • 後亀山天皇
  • 後小松天皇
  • 後花園天皇
  • 後土御門天皇
  • 正親町天皇
  • 後陽成天皇
  • 後水尾天皇
  • 明正天皇
  • 後西天皇
  • 霊元天皇
  • 東山天皇
  • 中御門天皇
  • 後桜町天皇
  • 光格天皇

なぜ、現行法では生前退位ができないのか

以上のように、明治以前においては生前退位した天皇は多くいるが、現行法で生前退位が認められていないのはなぜでしょうか。

第一の理由は、天皇の地位を安定させることです。

歴史的に見れば、天皇の地位が形骸化したり、天皇が譲位することで、天皇と上皇という2つの権威が並び立ったり、天皇の地位は安定的なものではありませんでした。

例えば、平安京においては、藤原氏が勢力を拡大し、摂政として天皇に成り代わり、執政を行うということがあった。摂関家の実効的な支配により、天皇という地位は名目上のものとなり、正常に機能しませんでした。また、11世紀以降には、院政が始まり、天皇が自ら譲位し上皇となり、天皇と並ぶ権威を有し、執政を行ったため、権威の統一がなされず、政治は混乱を極め、中世社会の秩序を崩壊させる結果となりました。

以上のように、①天皇の地位が恣意的に操作されてしまうと、政治に乱れが生じるおそれがある。このような弊害を防ぐという目的のため、明治憲法下では、天皇の生前退位が認められませんでした。さらに、②天皇が強制的に退位させられることや③天皇が恣意的に退位することを防ぐという目的もあり、現行法においても天皇の生前退位は認められていません。

生前退位の是非

では、実質的に考えて、天皇の生前退位を禁止する必要はあるのでしょうか。

日本国憲法下の天皇とは、日本国の象徴であり(日本国憲法3条)、執政権を有していません。つまり、明治憲法下で懸念された政治的混乱が生じるといった事態は通常考えられず、上記の目的をもはや維持する必要はありません。この点から見れば、生前退位を認めても問題はないように思えます。一方で、生前退位すること、それ自体が政治的行為に該当するのではないか、という指摘もある。

まとめ

天皇の生前退位を認めることについて実際上の問題は少なく、世論を見ても生前退位について肯定的な意見が多数存在します。一方で、皇室典範等に生前退位についての規定が欠けており、制度的な問題が未だ残っているので、皇室典範を改正するなどの措置を執る必要があります。

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